幻のエクスプレス

　『オリエント急行殺人事件』。これは自前で持っている。
　犯人は、確か昔読む前にネタバレされてたと思う（『そし誰』『アクロイド』とコレは、最も読む前にネタバレされやすい作品だろう）。
　実際に起きた事件をモチーフにしていることでも有名で、発表された当時はまだ記憶に新しい事件ということで注目され人気を博した。
　ここでネタバレはしないが、犯人自体はまさにコロンブスの卵で、他にも誰かが思いついていたかもしれない。これは『アクロイド』にも言えることだ。しかし、クリスティーの何が凄いって、思いついたら実際書いてしまうことだ。「書くという作業が一番辛いが、書かないことにはどうにもならない」とは本人の偽らざる弁。クリスティーというのは、「怖れ知らず」「やったもん勝ち」のミステリ女王だと思う。この稚気というか向こう見ずさは、お嬢様育ちであることと少しは関係があるのだろうか…
　で、犯人を思いついたことについてはいい。だが実際に、××が××を実際に×××つ××ていく、というシーンは（描かれずポワロが最後に真相として語るだけだが）、クリスティー自身は勿論想像したわけで…これを想像できた、というのが凄い。読んで頂ければわかるが、かなりヤバい光景である。
　しかしそれだけ、当時の、モチーフとなった冷酷非道な事件についてのクリスティーの怒り、関係者への思いは強かったのだろう。こんなに憎まれ、呪われている真犯人をこうしてやりたい…毒殺の多い彼女の作品群の中では珍しい、”ブラディ・クリスティー”である。
　また、ムラムラと鉄道で旅に出たくなる作品でもあり、旅行の計画がにわかに立てたくなる。

　これも明日レンタルで届くので観ま〜す。噂ではそろそろスーシェ主演版も作られるとか！？
オリエント急行殺人事件 スペシャル・コレクターズ・エディション