P.D.ジェイムズ再読⑥―『わが職業は死』

 

わが職業は死 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
わが職業は死 (ハヤカワ・ミステリ文庫)P.D. James

早川書房 2002-03
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おすすめ平均 star
star繊細で悲しい動機の殺人事件に挑む
star汚く、どこか美しい人間模様

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 ダルグリッシュ警視第7作。
 この作品から、警視は「警視長(コマンダー)」に昇進しています。このへん日本語には対応する言葉がないようなんですが、前より偉くなり、警察官としては最高の肩書きに近いのですが、まだ現場で働くことができるんだそうです(巻末解説より)。
 そしていつの間にか彼もまた”サザエさん世界”の住人となり…初登場から30年経っても、まだいい感じの中年です(笑)。
 書き始めた頃は自分よりちょっと上だった男性が、今は息子ぐらいの齢になっちゃってる…ジェイムズ女史も、最新作を見ても、彼への愛情はかなり深く、「お土産」としての彼の幸福を計画している節があります。
 まあしかしそんな先のことはともかくとして。
 今回もまた…閉鎖的人間関係。
 病院でこそないものの…
 法科学研究所ちゅう、またいかにもな世界。
 冒頭からして暗く…
 そしてまた、被害者は、誰っからも嫌われてる人間(笑)。
 そんなこと言ったら、したら嫌われるってわかってるのに、全部やる人みたいですね。いたのかもしれませんねえ、こういう人、作者の知っている人で。
 好きだねもう(笑)重いネタが(笑)と。もう半笑いでついていきますよ。いつものことさ(笑)。
 でもって、今回もまた、人間ってのは複雑だなあ、一対一でも複雑なものが、下手に絡んでしまうと大変だな、と。

 ジェイムズ女史というのは、ステレオタイプな枠の中に新しくリアルで強い作風を組み上げることで素晴らしい処女作を書き、以後もその強さは変わりませんし、ステレオタイプな登場人物もほとんど出てきません。
 しかし今作まで読んできて、「あ、いわゆる悪女タイプの女性って、毎度登場してるじゃん?」と思いました。
 処女作の被害者然り、『ナイチンゲール』然り。男を次々手玉に取る…というタイプでなくても、精神的に随分ねじけちゃってるというか…余り身近にいてほしくないタイプ。複雑キャラ。
 そして今作では、文字通りの悪女。モテモテ。
 こういう、今じゃ「普通」になっちゃった「嫌な女」も書くのね、と。ちょっと珍しくは思いました。
 勿論、ジェイムズ作品なので一筋縄じゃあいきませんが、やっぱり悪い女。モラル的に悪い女。
 そしてこういう女が出てくるもので、男女関係の生々しさではこれまでで一番かも。
 愛って何だべなあ…
 謎が解けると共に、「切なさ」が強いのも、結構珍しいかも。幕切れも…

 この作品で、マシンガム警部という、初めてのシリーズキャラクターとなる部下が登場します。
 やっとこの作品あたりから、作者も「ダルグリッシュ世界」を構築していく決心がついたのか…
 このマシンガム警部は貴族の家に生まれて、軍人ではなく警察を選んだという変り種。
 以後、これまたリアルで個性的なシリーズキャラクター同士の丁々発止も、シリーズを盛り上げていきます。
 この作品まで読んでしまったあなた…もうやめられませんね(笑)