P.D.ジェイムズ再読⑧―『策謀と欲望』
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ダルグリッシュ警視第9作。ポケミス版では1冊本ですが、やや手に入りやすい文庫本では上下分冊になっています。
前作で素晴らしいドラマを見せてくれたミスキン警部ですが、今回はお休み、というかお留守番なので出番なし。
何故かというと、『不自然な死体』、『黒い塔』に続き、又もダルグリッシュはプライヴェートなお出かけで事件に巻き込まれてしまうのです。もう、ダルちゃんったら!(笑)
『不自然な死体』に登場した、ダルグリッシュの最も親しい女性である叔母が引っ越した先で亡くなり、ダルグリッシュはノーフォークの寒村へ。『黒い塔』同様、遺品整理のため、死者の家に残ることになります。
さてこの寒村、近くの原子力発電所を巡って、様々な思惑が交錯している真っ最中。ダルグリッシュは複雑なシチュエーションに飛び込むことになってしまうのです。発電所の所長、その姉、反対派の青年、私生児を抱えたその同居人。
そして今回も、やっぱり、「研究所内でのドロドロ人間関係」が(笑)。出世争い、恋愛、脅迫、過去の悲劇…
もうほんっとに、「研究所」好きねえ、ジェイムズ女史(笑)
更には、今回の被害者も、めっちゃ嫌われ者の女(笑)。発電所のお局様的管理職。
彼女は、習慣である夜の水泳の途中で絞殺されていた。しかも、第一発見者はダルグリッシュ!
ダルグリッシュじゃなかったら犯人扱いなシチュエーションです(笑)。
折しも、”ホイッスラー”と呼ばれる連続絞殺魔が世間を騒がせていた。同じ手口。新たな犠牲者か?…
今回は、長さは前作ほどないものの、”盛り沢山”と言えないこともない内容。いかにもな殺人鬼を出してあって、旬なネタである原子力発電所、過去作品のキャラクター(ダルグリッシュの叔母)再登場、『黒い塔』のような海辺の寒村=限られた住民、「研究所ネタ」…
ギュギュッと充実、被害者もちっとも同情に値しない嫌な女(笑)。読みでありありの1作です。
とはいえ、色々と「こういうのもいかにもでしょ?」と女史が笑いながら出しているような部分はあくまでも要素にすぎず、骨格は正にジェイムズ作品。キャラクター1人1人の事情、人間関係を丹念に描き、ダルグリッシュに深く考えさせ、少しずつ少しずつ核心に迫っていく。
読み終えてみると、キャラクターの配置が実に見事だったと、今回も首を振りながら溜息です。殺人事件という本筋の他に、平行してというか裏でというか、別に1つ2つのプロットが進行する(ダブル、トリプルプロット)のが今では女史の作風と言われていますが、前作あたりから現れ始めたこの傾向は今作でも引き継がれ、思わぬ結末を迎えるキャラクターや、これまた思わぬ活躍をするキャラクターなど、最後まで眼が離せません。
そして大詰め、ダルグリッシュはまたも…
個人的には、プロットと同時に進行している、地元警官のサイドストーリーがなかなか粋で好きです。余りにも現実的すぎるほど現実的、ストイックというより普通に真面目、冷徹、冷静、そんな女史ですが、温かいドラマを書かせても見事。前作といい今作といい、本筋と絡みつつもそれ自体印象深いドラマ(ほんっとに、大盤振る舞いですわ…)も楽しめます。