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ふらんす物語 (新潮文庫)
ふらんす物語 (新潮文庫)
新潮社 1951-07
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おすすめ平均 star
star永井荷風の魅力満載
star絵画の如き散文詩
star散文詩

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 文章が魅力的。鹿島茂さんだったか誰だったか失念しましたが、パリについて書いた日本人はパリにぞっこんかパリを嫌うかどちらかしかないそうで(それはロンドンも同じだけどな(笑))、荷風は前者。今読んで、そして自分が行ったことのある21世紀のパリを思い出しても、なおこの文章で表現されたパリが魅力的で、自分がパリに行っておいてよかったなーと思わされる。
 そして、所謂お坊ちゃまである荷風は、よくよく考えてみると、現代よりよほどまともに外国文化と付き合った人たちの1人。今だってみんな四苦八苦しているのに、あの時代に見事にパリで生活をしている。渡仏直前までアメリカで数年過ごしているのが役に立ったと巻末解説にあるように、純粋日本人としていきなりパリに入ったわけではないので、着いていきなりパリの住民になっている感じ。
 20代の荷風!文章が後年よりややテンション高めなのも親近感が沸く。
 ただ、地球のどこへ行っても商売女としか付き合えないのもこの人…この性向はもう、病気の部類に入るんじゃないでしょうか。それともよっぽど幼年期から青年期に何かあったのか。私は日本文学には全くの素人なんで、作品を読んだり彼の年譜を見ただけで勝手にそうとしか思えなかったんですけどね。
パリは女―セーヌ左岸の肖像
パリは女―セーヌ左岸の肖像伊藤 明子

パンドラ 1998-07
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 この本、何でうちの区の図書館になかったんだろ?多分内容紹介を読んだだけで、頭の固い担当者がハネたんだろうな。物事の本質はそういうもんじゃないよ。そう言いたくなる選書は結構度々だ。もっとひどいのは、タイトルだけでハネられちゃったであろうタイトルの本ね。
 その他単行本2冊、文庫1冊。単行本1冊はクズ。どのへんがクズかお知りになりたい方のために書き添えておくと、イギリスドかぶれ本。借りちゃったから一応読んだだけ。
 イギリスの12ヶ月の気候、習慣のエッセイなのだが、いちいち日本の同じものと比較しては日本の方を批判。しかし、その日本のことについて、こいつ(今年81歳です)ホントに日本人か!?と思うぐらい間違いだらけ。何かを崇拝すると、自分が本来知っていることまで意図的に捻じ曲げることは確かにあるが、その手合いかもしれない。
 また、偉そうにイギリスの本を出版している割には、この人イギリスのどっちかというと文学の方の研究者で教授様なのだが、イギリスの歴史や政治システムに関しても、よくここまで無知だなというぐらいご存じない。例えば、
「イギリス人は、王室のためにかなりの支出をしているだろうが」
しーてーねーえーよー(笑)
 正にこここそ、日本の皇室とイギリスの王室の違い。可哀相に、この人イギリスの研究してるくせに知識が一般日本人並み(笑)
 イギリスの王室は今でも普通に、大変な大地主で財産家。但し現在は広大すぎる領地から上がる地代を全て一旦国庫に入れ、そのほんの一部を支払われています。日本のように国民が税金として均しく負担しているのではなく、イギリスにおいては地代を王室に払っている人だけの負担のはず。「イギリス人」の支出なわけがない。つまり王室の生活費は「自腹」。日本のように海外のゲストからお土産としてもらうものの金額さえ限度が決まっているのとは異なり、高価な美術品もそのまま持っていますし、地代の他にも収入があります(お城の見学代などは恐らく王室に入るはず。ウィンザー城の火災の後も、修理費のために美術品を売りました。かのロンドン塔も、正式には王室の持ち物ですが、入場料がどうなるのかは知りません)。かつ、このように国が代わりに払ってくれている中から、更に、かなり多くの王室メンバーの生活費一切を女王が負担しています。つまり女王は「家長」(かなり太っ腹な)でもあるわけです。
 こんなことは確かに、日本人だったら知らなくて当たり前。私も森護さんの本で読みました。でもこれだけエラソーにイギリス通を自認して、日本人を騙すような(この著者が好きな人はそのまま母国日本が嫌いになるでしょうな)イギリス本を書いていて、そういう人にとっては超基本的である知識さえないとは…。それに、研究者には、皇室と王室のこうした違いこそ、国の成り立ちや日英両国民のメンタリティの違いを論じる上で非常に重要なことの1つ。だから、アンタそんなに比較したければむしろこういう所もちゃんと知った上で、比較して歴史論議、文化論の1つや2つブッてみたら、って感じ。でも、できないんだよね(笑)。知識が文学方面に偏ってるとか以前に、こんだけ国の歴史に関わる色んなことを知らずに、その国の文学がわかんの?って感じ。多分学者の世界ではこの人の論文とかって通用してるんだろうけど(だから学者の世界って、本当に学問の世界と言えるのかってのは前々から疑問視されてますよね)、これじゃとても本業の文学的方面でも信用できない(笑)。イギリスの自然は日本よりいいだの、紅茶は美味いだの、知ってるだけの上っ面書いてりゃ生活できるなんて、まあ何て楽な商売ざんしょ。出す出版界も出版界。
 それに、オックスフォードの学生街の飲食店は安くて美味いが、日本の早稲田も本郷も神田も美味しい店がないとか書いてるし(笑)。つかお前が知ってるのは早稲田だけだろって(笑)。早稲田のことは逆に私はよう知らんけど、少なくとも神田は美味い街だぞ。
 結局、何かこう…この人、10代か20代かで専攻を決めた時点で、完璧に日本を捨ててるね(笑)。それまで持ってた日本の知識まで忘れてない???前にも指摘したけど、2006年になっても「日本はアルミ缶やペットボトルをリサイクルしてない」とか書いてるし。日本の海辺は「海の家」があるからイギリスの海浜保養地に比べ「汚い」の一言で終了とかね。日本の海の家の問題はイギリスとは関係ないだろ(笑)。
 書名が気になる人は「英国」とか「四季暦」とかで検索してみて下さい。
 その点、いつも思っているのですが、パリとかフランスにかぶれない鹿島茂さんって凄いですよね。こういう感心の仕方をしてしまっても鹿島さんに申し訳ないのですが。そういえば鹿島さんって、パリが素晴らしいってことは書いていても、日本と比べることはほとんどないですよね。思考にバイアスがない。凄いことです。あと、日本のことは日本のこととして、真っ向から真面目に論じてますよね。何かと何かを比べることは重要だけど、実は凄く、比較して間違った結論を出すのは簡単な作業。比較すべきものと比較すべきでないものを見分けることができるかどうかは、やっぱり人柄ってやつかなあ。