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シャーロック・ホームズ七つの挑戦
シャーロック・ホームズ七つの挑戦天野 泰明

国書刊行会 2009-09-25
売り上げランキング : 118251

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star面白い
starななつで

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 ホームズ・パスティーシュというジャンルは、ごく僅かにカス本が含まれてはいるものの、概ね平均からそれ以上の出来のものと言っていい。その中でも、この『七つ』は、近年稀に見る傑作!!!
 キャラクター描写や地の文の完璧な模倣の上に、7編(複数の短編集からの抄録)全てが一筋縄ではいかない構成。いい話あり、ひねった話あり、意外な歴史の解決あり。
 訳者が、”ホームズ業界”では見かけない人だなと思ったら、原文は、そりゃ著者の名前を見れば明らかですが、イタリア語なんですな。そして訳文もとても読みやすかった。
 パスティーシュにさえも飽きちゃったよ、という人にも、一読をお勧め。
図説 ケルトの歴史―文化・美術・神話をよむ (ふくろうの本)
図説 ケルトの歴史―文化・美術・神話をよむ (ふくろうの本)
河出書房新社 1999-08-26
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おすすめ平均 star
starケルトを学べる最高峰の本 ― 古代からエンヤまで −
starエンヤとの響き
star渦巻き模様がとても素晴らしかったです。

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 これも素晴らしい!”当たり本”が続くと機嫌がよくなる(笑)
 河出書房のムック形式の本なので軽く読めるのかな〜と思ったらさにあらず。でも嬉しい裏切りというやつで、ビジュアル性と専門性を兼ね備えているのだ。この情報量とまっとうな取り組み方で1800円はお得。
 書いているのが学者さんなので、「はじめに」でまず文章の読みにくさに「ぎょえ」となったのだが、そこを耐えて読んでいくとナルホドナルホド、まずケルトがやたらとロマンティックなだけの捉えられ方をしているのは何故かを「はじめに」でツッコみ、その後は他のヨーロッパの歴史文化とのかかわりを交え、真っ向からケルトを表現していく、なかなかの労作。
 あと、関係ないのだが、不思議なことに、この「はじめに」って、読むと持って回っていて非常にわかりにくいのに、音読してみると文章の切れ目が息継ぎにピッタリなのね。ホント不思議。
 前にちょっと書いた、オスカー・ワイルドのミドル・ネーム「フィンガル」は、やはり「フィンガルの洞窟」からきているそうです(本書118ページ)。なんでも、ケルトの神話をまとめた書『オシアン』から名前を採ることが当時流行っていたそうで。スウェーデン王は王子にオシアンの息子の名「オスカー」をつけた。その王の侍医がウィリアム・ワイルド。妻ジェーン(自称・スペランザ)と共にケルト文化の研究復興につとめた。そして2人の息子が件のオスカー・ワイルド。そしてミドル・ネームのフィンガルはオシアンの父親の名前なんだそうです。(じゃあ、残りの「オフレアティ」と「ウィルズ」はどこから来てるんだろー…)
 しっかしこの父ちゃんがあの「タラ・ブローチ」を発見していたとは、びっくりだ!(女性関係では色々問題アリだったらしいんですが、まあ奥さんとは趣味も合ったようですし、いいんじゃないでしょうか。ちなみに映画「オスカー・ワイルド」では、息子が何しようが最後まで認めていた母の役をヴァネッサ・レッドグレープが演じておりました。)
 『ベルばら』の「オスカル」は勿論このオスカーのことなんだそうで。但し、このテの名前をつけるのが流行ったのはフランス革命より100年ほど後ですが。いずれにせよ、確かにちょっと異国風の名前ではありますね。アカデミー賞の「オスカー」も、命名には諸説ありますが勿論このへんの人名なので、公式に「オスカー像」となった1930年代には既にアメリカでもこの名前は定着していたということですね。
 それにしても、「ケルトもの」を読めばよむほど、やっぱりトールキンケルトっぽいなあと思います。勿論彼が参考にした英国の伝説はケルトばかりではないしもっと広範な知識を結晶させたものが『指輪物語』だとは思うのですが。『フランス「ケルト」紀行』には何と「ロリアン」という地名が出てくるし(!)(但しトールキンはフランス語が大嫌いだった(笑))、やっぱりアーサー王や、ドルイド→魔法使いのイメージとか、自然の捉え方とか、「かつての王にして未来の王」というキーワードとか…