関口知宏『関口知宏が行くイギリス鉄道の旅』(徳間書店)

関口知宏が行くイギリス鉄道の旅
関口知宏が行くイギリス鉄道の旅関口 知宏

徳間書店 2006-08
売り上げランキング : 145525

おすすめ平均 star
star歴史ある緑豊かな大国への旅の絵日記は実に幻想的。
starイギリス最北端まで
star旅に行きたくなる本

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 のっけの、「イギリスは日本の先輩先進国」という定義には「?」であった。今時、
「日本が〜の頃に、もう〜していた先進国」
という乱暴な比較はもう無理だろう…。
 この本は鉄道をテーマにしている。だから、「日本がまだ人力や馬力だった頃に鉄道で運んでいた先輩先進国」と最初に書いてあるのだが…そういう一面的な比較で始まっている本って…。歴史の道は一方通行ではないし、同列に論じていい物は実は僅かしかないし、全ての違いは「優劣」ではなく「差異」であると私は考えている。まあ私が考えているだけであって、世間的には細かいことはどうでもいいのかもしれないが。
 とはいえ、中身はそれなりにいい。あくまで個人の旅行記であって、この個人の比較基準を信じなくてはいけないわけでもない。
 ロンドンの部分は少しで、メインは、イギリスの美しい地方、と言っては連合王国に失礼か、イングランド湖水地方や、スコットランドウェールズの街と田舎。この本はそもそも、元の番組が「人とのふれあい」を主眼にしていたおぼえがあるし、筆者の様々な体験や自筆の日記が見所。特に日記部分。大上段でもなく卑近でもなく媚びてもいない普通の感覚を、素朴かつ無駄のない短文にまとめていて、とても良い。第一弾であるドイツ編も読んでみる気になった。
 あくまでも1人の青年の目を通した連合王国旅行だが、小さな疑似体験であり、行ったことのある人には行ったことのある場所の確認であり、想像の翼の一助。
 絵が上手いのは勿論だが、この人、男にしては(というのは偏見かな?)、本当に字が綺麗。
 私の2回のイギリス旅行(イギリスを文字通りイングランドとしてもぴったりな、ほぼイングランドのみ旅行)は、どちらもホテルと航空券のみのフリープラン。ロンドン観光が目的で、1回目はオプショナルツアーでストーンヘンジとバース、2回目は電車に乗ってオックスフォードに行ったのが地方観光。この本を読んで、さして地方観光はしなかったとはいえ、やっぱりもっと電車で移動すればよかったなあと思った。本当に生まれ育って今も暮している東京都心と同じ感覚で地下鉄を乗り回して観光しまくれたのは勿論よかった点だが、地上を走る電車は結局オックスフォードに行った1回だけ。確かGWR(グレート・ウェスタン鉄道)。長距離移動(途中下車しつつの)の筆者の旅とは違って近距離なので、IC(特急)ではなく普通の電車の急行っぽいやつだったから、犬は連れ込んでるわ座席で横になってるわの、日本とは大分違った雰囲気(笑)。出発駅はロンドン・パディントン。そう、「駅」をもっと楽しめばよかったなというのも小さな後悔。よく使ったのはホテルの最寄駅の中にあったスーパー「WAITROSE」。印象に残っているのは勿論ベイカー・ストリート駅と、何故か2日続けて近くを通ってしまった上に、ロンドン最終日にユーロスターに乗るため出国手続き(パスポートを見せるだけ!)をした、近代的なウォータールー駅(テムズ川の南側=サウスバンクにある)。表記が英仏併記になったこの駅からもう気分は巴里。しかしサウスバンクって本当に美しいの。ダリ・ミュージアムに閉館ギリギリに行った時の、あの夕暮れの美しさ…。テムズ川のある風景って、何て素晴らしいんだろうと思った。今思い出しても夢のよう。もっとこの駅の周りを堪能したかったなあ。それに、パディントン駅にパディントンの像があるのを知っていたら、見てきたのに…!何を隠そう(隠してない。書いてなかっただけ)一番好きなキャラクターはパディントンなのだ。
 多分、地方に行ったら行ったで退屈してしまうんだろうが、だったらいつか思い切って時間をかけて地方を回るようにしてしまえば、楽しみ方もあるだろう。何事もハンパはいかんなあ。しかし生きてるうちに行けるんだろうか。
 なお、言うまでもなく英国は鉄道発祥の地であり、ロンドンの地下鉄も世界最古の地下鉄である。と言うととまた、冒頭に書いたような、一面的な偉い偉くない論になってしまうので、それは一旦よけておいて、それでもなお「英国と鉄道」というテーマはそもそも深い。鉄道史の発祥であると同時に、英国史、英国文化史の重要な1テーマでもあると思う。鉄道が文化である、という一点だけでも、先輩先進国だどうのという見方をしなくても、凄い国の1つだとは思えるのだ。この絵日記の本は、決して英国鉄道研究の本ではないので、もしもっと英国の鉄道、いや英国と鉄道について知りたい方は、好著がいくつかあるので、検索してみることをお勧めする。
英国鉄道物語
英国鉄道物語小池 滋

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