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黄昏のロンドンから (文春文庫 232-1)
黄昏のロンドンから (文春文庫 232-1)木村 治美

文藝春秋 1980-01
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 今から40年近く前に書かれた本である。この本に大宅壮一ノンフィクション賞を与える見識があるならば、何故未だに日本は、英国国民の数%しか買わないものを「英国代表」として有難がっているのだろう。まあ、自国のいい物だけを、しかも効率よく、国全体のことのように宣伝してしまう能力は、流石ヨーロッパで揉まれた国だということだ。
 しかし未だにこれを超える本はないように思えるが、Amazonにもレビューはないし、今では余り売れていないようである。今でもバンバン読んでもらうべきだ。今からでも遅くはない。
 なお、この本で批判されたのは「英国の移民は7割」という点だが、文庫版あとがきにもあったように、著者は英国で専門の学者に聞いたこととしているし、批判も、「そんなにいるわけがない」という印象論ばかりで、じゃあ何割なのかという反論が寄せられることはなかったそうだ。確かに、私がロンドンに行った時も、ざっと見ではあるが、最低でも半分は移民である。実は、もっと奇異な眼で見られるかと思っていたのだが、移民が元々多いせいか個人主義の国だからか、全くもって観光客を珍しがる風習はロンドンにはないようだ(日本人は、この本にもあるように、観光客でも白人にだけは親切にするようだが)。この本にもあるように、確かに、私も目撃した限りでは、バスの運転手など交通系は黒人が多いなど、40年近く経っても、出身国によって何となく職種が分かれているのは変わっていないようだ(ホテルのドアマンさんやポーター氏は東南アジア系が多く、気のせいか、飲食店で働いていても明らかに英国人とわかるオネエチャンはやっぱりエラソーだった)。7割を「そんなに多いはずがない」と思う人は、5割でも「多すぎる」と思うだろうが、これが現実であり、現実ゆえに起こる問題も、長い眼で見て克服していこうというのがこの国なのである。私も旦那も、観光客にしちゃあサッサと歩いていたし(大都市向け人間。多分素敵な田舎とかリゾートに行っても、ネットができなきゃ10分で耐えられなくなる)、ガイドブックやカメラをいかにもな感じで持ってはいなかったにしても、やはりロンドンから見れば、住民であろうと観光客であろうと、どうでもいいのだろう。
 福祉のあり方(特に税金との兼ね合い)については、日本も含め今大問題になっているが、学校を含めたイギリスの福祉については流石と思った。公立学校における外国人の受け入れ態勢が、40年近く前にして本当に立派なのである。ところが日本では、最近やっと、「外国人の多い地域の小学校でどうしようか」と試行錯誤している。イギリスを盲目的に崇拝する気はないが、ちょっとこのイギリスの公立小学校のくだりでは、一瞬、移住しようかと思わないでもなかった。が、これも一面的な話で、やはりイギリスでも、まともな教育を受けさせたければ小学校から私立、そして大変な苦労と運動をして所謂パブリック・スクール(よく誤解されているが、これは「家庭教師」など家庭内ではないという意味で「パブリック」なのであって、間違っても「公立」ではアリマセン)に入れて、後はお決まりのノブリス・オブリージェであると。ただそれでも、移民や短期滞在の外国人の子供に対する扱いはいいと思う。日本からイギリスに行く子供はいいが、海外から日本に赴任してくる外国人の子供は大変だなあ。(日本人の帰国子女も、どなたかの本で読んだが、先進国帰りはよくても、東南アジアの国々など帰りだといじめられるようである。実にバカバカしい。)