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下町探偵局〈PART1〉 (ハルキ文庫)
下町探偵局〈PART1〉 (ハルキ文庫)半村 良

角川春樹事務所 1999-12
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 こーれーはー。面白いっ。わざわざ面白いって書くぐらいだから面白いっ。(最近感想を書く時間がまるでない)
 探偵局があるのは両国。事件の舞台は両国以東市川まで。わはは。地元過ぎて地理わかりやすすぎで個人的に楽しすぎでした。逆に言えば、皇居より東にお住いの方には、チンプンカンプンの可能性ありですが…(私も東京の西の田舎に住んでた頃は、墨田江東あたりのことなんざ別世界でした…形の上で電車で簡単に行き来できるようにはなっても、やっぱり人間のイメージというものは、実際に暮らしているエリアを超えないんでしょうね)
 ハルキ文庫での再刊で、底本は1984年版の角川文庫。物語の舞台になっているのは、戦後すぐ生まれの人間が分別のつく齢になっているという時代で、今からざっと40年近く前。なのに、驚いたのはストーリーが今読んでもまるで古くないこと。探偵社に持込まれる事件、つまりは人の心というのは、ほとんど変わっていないんですね。
 謎解きの芯になっている社会問題も、今ではなじみのないものもありますが、大部分は変わりありません。
 独居の寝たきり老人、若者の閉塞感、家族の離散といった、特に肉親の問題なんかは、今を先取りした…というか、3、40年前でもう十分問題になっていたんだということが、あらためて思われ、その間社会や政治は一体何をしていたんだろうなあという気にもなります。
 そうした、「復興」こそ終えたものの、早くも既に21世紀と同じ問題を孕んだ昭和40年代〜50年代初頭の下町で、自他共に認める貧乏探偵社、気はいいが同じく貧乏で、”貧乏に誇りを持っている”地元の人々が織り成す物語。
 主人公は探偵社ですが、「謎が解ける」というよりは、調査によって段々と依頼人の背景にあるものが見え、それを通して社会が見えてきた所で、何らかの「折り合い」がつく。その依頼を社会的にどうするか、より、心の問題にどう折り合いがつくか、ということが主眼。その後どうなったの???という部分を残しながらも、人ってそんなもんだよね―――としみじみする3編。
 これは、ある程度齢のいった人が読むものですね。介護問題、家族の問題、社会の矛盾…申し訳ないですが、親掛かりの年代では本当にはしみじみできないでしょう。