鬼の居ぬ間に東海林さだお

 えー、準々決勝までちょっとだけお休みできるので(笑)この間にちゃんと本の話をしましょう。

澁澤龍彦巖谷國士『裸婦の中の裸婦』(文藝春秋

裸婦の中の裸婦
 『文藝春秋』に連載された軽妙なエッセイ。毎回1枚裸婦の絵を採り上げ、対談形式で語る。 
 とても読みやすく、勿論それまでの絵画エッセイも抜群だったのだが、裸婦に絞ったこれも澁澤殿の「目」がよく出ている1冊。
 ただ、連載途中で澁澤殿が体調を崩し、本人ご指名で巖谷氏にバトンタッチ。結局これが最後のエッセイとなった。
 ラスト3回が巖谷氏の担当。対話形式は変わっていないが、うーんやはり、ちょっと違うかな。勿論どちらもいいのだが、やや軽さが足りない。
 逆にいえば、生涯の最後に、年少の友人と思わぬ形の「共著」が残せた、ということかもしれない。

東海林さだお『偉いぞ!立ち食いそば』(文藝春秋

偉いぞ!立ち食いそば
 久々の本当の「新刊」である!!!
 何故強調するかといえば、このところ、「新刊かと思えば過去のエッセイの再構成」が多すぎたからだ。『ショージ君のALWAYS』(「あの時代」ネタ。なぎら健壱との対談はよかったが)、『ショージ君の養生訓』(健康ネタ)など、勇んで借りてみてがっかり、を繰り返した。特に『ALWAYS』なんて、苦言を呈すれば、東海林さだおほどのお人がブームを当てこむ必要はないと思う。まあ、いつも読んで忘れちゃってるからまた新しく読めることは読めるんだけど、損した気分にはなるのです。
 さて、この『偉いぞ!』は、『週刊文春』連載中の「男の分別学」の単行本化シリーズである(分別学と言っても、毎度可笑しな話である(笑))。東海林氏のエッセイは現在、『週刊朝日』連載の「あれも食べたいこれも食べたい」の単行本化である『〜の丸かじり』シリーズ(これはこの間新刊読みました。後で文春文庫に入るのでダブって読まないよう注意)とこの「分別学」が2大シリーズ。不思議なことにどちらのエッセイも、まとめて読んだ方が面白い(笑)どうも雑誌の中に埋もれてしまうと印象が薄いのか。やはり丸ごと1冊どっぷり楽しんでナンボという気がする。他は企画ものエッセイ、アンソロジー。特に最近は再構成ものが増えているので注意。
 さて久々の本当の新刊である!!
 惜しみ惜しみ読むというのはまさにぴったりだが、惜しめるほどのボリュームでないのだった(笑)読みやすすぎるしなー(笑)あーあ。楽しみにしてたのにすぐ終わっちゃった。東海林氏がよく使う喩えを借りれば「初夜の花婿」(笑)
 タイトルにもなっているように、今回の主なテーマは、「立ち食いそば全メニュー制覇」(近所の「富士そば」)。いやー、入ったことなかったのですが色々あるんですね。野菜の天ぷらがムチャクチャ美味そうに書かれていた。いつか入ってみよう。「富士そば」の丹社長との対談もいいんですが、…うーん、どうせやるなら最後までゲリラでやってほしかったので、これはちょっとガッカリ。裏話が中心人物から暴露される(笑)のも面白いが、もっともっと好き勝手書いてくれた方がもっと面白い。このように最近は企画のたびに大元と絡んでしまい、最後で気持ちが殺がれることが多い。
 そうそう、「椅子を置くと女性と子供連れが入る」のだそうですが、やっぱり立ち食いは立って食べなきゃ!!あのわびしい姿勢がいいのに!!
 社長曰く、「立ち食いそばに入るアベックはデキてる」。あのー、その「デキてる」というのは、単に交尾と、じゃなかった、恋人同士であるというだけではなくアレだということですね?はい。なるほど。
 これ、「観光地に行っても入るのがマック」とかでも、「デキてる」指標になると思いまーす(笑)名よりも実を取れるようになったら本物(笑)
 あと、巻末の、『怪獣の名はなぜガギグゲゴなのか』の著者・黒川伊保子さんとの対談「ことばの不思議を尋ねてみれば」(だっけ)が大変面白うございました。言語の特徴はメンタリティそのものだということは漠然とはわかっていましたが、この対談では具体的な例を挙げて実に明快に語られていて、納得しまくりでした。
おでんの丸かじり ショージ君のALWAYS―東海林さだおが昭和を懐かしむ ショージ君の養生訓
怪獣の名はなぜガギグゲゴなのか

ジェフ・アボット 吉沢康子訳『海賊岬の死体』(早川ミステリ文庫)

海賊岬の死体 -モーズリー判事シリーズ
 「図書館長シリーズ」のアボットによる、「モーズリー判事シリーズ」第2弾。明日あたりブログでも述べますが、今回の新刊チェックで発見。
 元フリーター、親のコネで偶々判事の職を手に入れた、開襟シャツに短パンのお気楽判事モーズリー
 今回は恋人もできて絶好調、ところがその恋人の伯父が殺され、それにはどうも海賊の秘宝伝説が絡んでいて…
 と、一見(殺人事件ではあるものの)夢ありそうに始まって…
 やっぱキツい話になった(^^;)
 温暖な気候、美しい海…ときて、やっぱり。このアボット、「図書館長シリーズ」も結構キツい展開になることが多いのですが、やっぱり穏和な顔の下にシビアさを隠した作風です。
 この作品自体はMWA賞の候補になるなど高い評価を受けただけあって、確かによくひねられた推理小説です。
 シリーズキャラクターも馴染んできたし、最後はちょっとじんときます。シビアだけどそれを乗り越えて、あるべきところを確かめるというのはいいお話です。
 あっ、第3弾、『逃げる悪女』も出てる。借りなきゃ。