クリスマスツリーにまだらの紐

t_masamune2006-09-12

 しばらくまとめてグラナダTV版ホームズのDVDを見て、再びRuby版(原語ね)に戻る。
 今日は、「青い紅玉」の続きと、「まだらの紐」が途中まで。
 どっちも丁度DVDで観たところで、あらためてその忠実な再現ぶりに感服する。
 ちなみに、ここでいう「紅玉」とは、ガーネットのこと。DVDの字幕は「ブルー・カーバンクル」に対して「青ざくろ石」。これも正しい。
 ガーネットは私の誕生石でもある。ざくろ石と言う通り、紫から赤紫のものが多いが、実は色々な色のものがある。トパーズのような蜜色もあれば、グリーンのものもあるらしい。作中の「青ざくろ石」は、見事なブルーのガーネットである。
 このDVD版というのは、既に評価は映像化作品として最高であるというのは今更くだくだしく繰り返す必要もない。
 原作を原文で読んでから観ると、実は台詞そのものに原文の言い回しをそのまま使っているところは半分ぐらいだろうか。流石に原文はヴィクトリア朝文体なので、ドラマの脚本では持って回った表現はかなり整理されているが、ジェレミー・ブレットの喋り方がそれを補って余りあるのかもしれない。勿論、有名な言い回しや会話はかなり残っている。
 かつ、「これぞ短編!」という、余りにすっきりした展開で余りにあっさりした結末である原作に対して、ドラマは演出で登場人物の人間性をより膨らませたり、新たな会話を加えたりして現代人が見ても退屈でない、しかし節度のあるリアリティを実現している。このあたりが、このシリーズが最高傑作と言われる所以だろう。
 そして、物語の冒頭と結末には、原作通りあるいはオリジナルのエピソードが配され、ホームズとワトスンの微笑ましい関係(時にはハドスン夫人も含めて)、いわば「ベイカー街221bの世界」が示されており、実はこの部分が「完全版」のキモである。何故なら、NHK放映版では、最も端折られたのがこの、「生活」の部分だったのだ。勿論、だからこそNHK版は純粋に推理のみを楽しめる、毎週観る分には飽きの来ない、これはこれでそれなりのものなのだが。
 DVDを買わないと味わえないこの部分の最大の特徴といえば、やはり「コカイン」だろう。実は完全版第1話「ボヘミアの醜聞」の冒頭は、ズバリ、ホームズが退屈の余りヤクに耽溺しているとみたワトスンがそれを咎める場面なのである。このワンシーンだけで、この2人の完全に対等な関係と、ホームズがけして完全な人間でないという、シリーズの全てを見事に表した、思い切った演出と言えるだろう。
 この冒頭部分は勿論、以後もコカインがらみの部分は全てNHK版ではカットされている。だが、このコカインのくだりがあると、2人の関係がなかなか面白かったりする。
 「ぶなの木屋敷の謎」(美しいヴァイオレット・ハンター嬢は、ヴァネッサ・レッドグレープの娘が演じている)の冒頭で、いつもニコニコと機嫌のいいワトスンに朝っぱらから喧嘩を吹っかけるホームズなんぞ、あれは完全に”ヤク切れ状態”であるし(笑)、原作とは違ってワトスンも一緒についてきた「マスグレーブ家の儀式書」では、ヤクでハイになっている(ここもカットされたので、NHK版ではよーく見ると繋がりがおかしい部分もある)。
 原作と異なり、ホームズがヤクと完全に手を切るシーンがあるのは、「悪魔の足」。この場面の出来が素晴らしいのだが、勿論NHK版ではカット。何故とうとう本国でもこういう展開になったかというと、やはり薬物乱用の問題は深刻だからだそうだ。英国では、その他の問題も勿論だが、若者の薬物汚染は今はもっと凄いらしい。
 と…書きたいことはまだあるのだが、また次回。 
 ちなみに今日は、正にそのジェレミー・ブレット氏の命日である。
シャーロック・ホームズの冒険 完全版 DVD-BOX
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