あいづ・そうかつ・6・喜多方3

 さて話を喜多方に戻す(本当に年内に終わるんだろうか、この会津シリーズ)。
 喜多方にはラーメンの他にもいくつか名物がある。蔵の建築、桐下駄、神社、塗り物などで、それらに関する展示館もある。だが、如何せん、滞在できるのは1時間38分。ラーメンを食べるまでは、回転率がいいだろうこともあって時間が読めるが、その先は未知数だった。だから、後は、1ヶ所行けるかどうか。
 その1ヶ所を、「小原酒造」に決めていた。
 私はモーツァルトファンである。そして、ここはモーツァルトを聴かせて育てた「蔵粋(くらしっく)」というお酒を造っていることで有名らしい。何でも、品評会で優勝したお酒だそうだ。時間は本当にイチかバチかだが、地図と首っ引きで足早に向かう。地図で距離を計算しても、行って戻ればどう考えても会津に戻る電車に間に合いそうにないのだが、喜多方に来て本当にラーメンだけというのも口惜しい。
 それに、私は酒の中では日本酒が一番好きだ。
 途中、本格的なラーメン屋街や、一歩入ると写真のようなレトロなところもあった。(写真はクリックで拡大)
 会津18喜多方レンガの建物mini.JPG
 ちょっと広くなったところは「馬車の駅」で、馬にやるニンジン(有料)も置いてある。
 ここであらためて馬と向かい合うと…
 でかい。怖い。
 サラブレッドなんてそんなにでかいイメージはないが、農耕馬となるともう化け物である。頭までの高さはチビの私の倍近いし、うっかり転んであの脚に踏まれたら即死だろう。(最近「ばんえい競馬」のニュースをよく眼にするが、会津の馬車も維持費は大丈夫なのだろうか…)
 ほどなく、何とか目指す店を探し当てて入ると、TVの撮影中で、狭い土間は既に一杯だった。普通の田舎の大きな家の玄関のような感じで、土間から上がったところに色々なお酒やレジ。
 お店の人が、
「お時間があれば蔵の見学を…」
と言ってくれたが、時間どころかこの今引き返さないと本当は間に合わない。
 「会津ぐるっとパス」(指定された区間内のJR、バスが乗り放題&加盟店で値引きや記念品などのサービスあり)の、このお店での特典はオリジナルのお猪口。これが目当てだったのだが、よく読んだら買わないと貰えない。ということで、吟醸(確か無濾過)じゃない方の、モーツァルト肖像画つき、生誕250年記念「蔵粋」を購入(1,050円)。吟醸だともっと高い。
 瓶と、その袋。(写真はクリックで拡大)
 会津96蔵粋瓶.JPG 小原酒造のビニール袋.JPG
 TVの取材は、「タレント」らしき女性2人を見ても、ローカル局のものらしい。お店の人に勧められてお猪口で試飲などしているうちに、我々は大分邪魔になってきたらしく(でも、狭いんだよ本当に!)、最初は観光客に気を使ってよけてくれていたスタッフも、流石にカメラの視界から消えてくれと身振りで叱る。
 お店の人とスタッフの簡単な打ち合わせの後、カメラが回り始めるや、地方女性タレントが甲高い声で、
「のっみやすぅーーーーーい!!!」
それまでと余りに違うテンションに、TVのカラクリを(わかっちゃいたがあらためて)思い知った。
 ニュースだろうがグルメだろうが、実際はこうなんだろうなあ。(あれ以来グルメ番組は信用できないが、依然として「元祖でぶや」は石ちゃんのキャラで許す。)
 その間も、こちとら気が気ではなく、買ったお酒を包んでくれるお店の人を見つめ続ける。
 しかしいつから、日本酒は「甘い=呑みやすい」になったのか。
 試飲したお酒も、吟醸だったのだが、こちらは甘口だそうで、呑みやすいには呑みやすい。お店の人も盛んにこの「呑みやすい」を売りにして勧めてくれる。
 スタッフとタレントの打ち合わせも、「呑みやすいでしょ?」「うん、呑みやすい」と、「甘くて呑みやすいお酒」というコンセプトに終始していた。
 しかし、「甘い=呑みやすい」というのは、間違いであると思う。
 私は辛口が好きだし、辛口が合う日本料理の方が多いような気がする。しかも、味が甘いのではなく、いい酒は辛口だろうが何だろうが、口に含んだ瞬間はむしろ水に近いという(by田村隆一)、それが本当の「呑みやすさ」ではないだろうか。また、辛口を作ろうとして作るのではなく、「いい酒」を造ろうとしたら自然と辛口になるのだという(by、同。「越乃寒梅」についてのくだり)。
 勿論私は飲兵衛ではないので詳しくはわからない。それに、日本酒全体がもう「呑みやすい=甘い、薄い」という嘆かわしい状況になっているのも事実だ(戦後のお酒のランク付けや添加物のカラクリについては、色々本があるのでそちらをどうぞ)。しかし少なくとも私は、普段も「純米」でなるべく「辛口」とあるのを買うし、今回も、甘口よりはやや辛口という、吟醸でないのを買った。量が飲めない分、なるべく辛口を買って、ちびちびと、自分で作った料理を前にやるのが一番である。(と、書いておいて申し訳ないが、今都合で酒が呑めないため、会津で買った酒の感想は書けない…)
 池波正太郎が「鬼平」に言う、「火照った口中に蕎麦をすすりこむ快味」なんてのも、辛口の酒でなければできないコントラストである。
 時間がなくて十分見学もできず、じっくり味わいもせず慌しく買ってしまった上、批判めいたことまで書いてお店には本当に申し訳ない。しかし、勿論そんなつもりでお酒を造っているわけでもないだろうし、今は日本酒ばかりが売れるわけではないという事情もわかるが、「呑みやすい=甘い」を基準に売って欲しくはないと思うし。また、これはお店の責任ではないが、TVの取材でめっちゃ醒めたというのもまずかった(もしかしたら地方番組で、私も映ってたかもしれません…)。
 しかし、モーツァルトファンとしては、それを聴かせて育てるという発想は楽しいし、飲むのをとても楽しみにしている。実際、野菜もモーツァルトを聴かせると美味しくなるそうだから、美味しいのではないかと思う。じっくり選べなくて、1本しか買えなかったのも残念だ。試飲していない辛口を買ってきたので、それが十分美味しければそれでいいと思う。
 さて、もう電車の時間までは25分しかない。行きは、写真を撮りつつであったし、ラーメンを食べていた時間を除いても、ここまでの行程は45分ほどだったろうか。
 もし間に合わなかったら、次の会津若松行きは2時間後(これが恐ろしい…)。今日の若松での予定がすっ飛ぶ。最悪はそれでも構わないにしても…
 ちなみに、喜多方から途中何度か停車して若松に戻る乗り合いロンドンタクシーもあるが、前日までに要予約(それでも1,000円は安い)。
 全力で走る。道は相方に任せているのだが、行きとは違う道なのでどのあたりまで来ているのかずっとわからないまま。
 お金は勿体ないが時間はもっと勿体ないので、タクシーでも通れば駅まで乗っけてもらうのだが、全く走っていない!
 駅前にはあんなにいたのに!
 ああ、普通の町。普通の小学校。普通の役場。普通の恰好の商店のオバチャン。
 そんなものにも眼を細めている暇はなかった。
 最後の手段として、行きに通ったバス通りに出れば、行きに見た、駅に行くバスも通るかと思ったが、そんなこともなかった。
 しかし!!!!
 「駅まで500メートル」の案内が見えた辺りで希望が。あと10分で走れるだろうか。
 頭の中ではもっともっと先だと思っていた、レンガの駅が見えた時の安堵。
 結局、行きに約45分のりを20分!!で走り(…おんなじことを去年日光でもしたのに…)、意外と余裕で喜多方駅に到着。
 (今から考えると、あの日あんなに走っちゃってよかったのかと心配なのだが…)
 ホームにて。
 会津22喜多方駅ホーム蔵粋1.JPG
 会津若松行きの電車はローカル線で、観光客も、地元の、目一杯カッコつけたつもりの(ごめんね)高校生もいる。
 しかしもうこちとら、とにかく疲れて息が切れて汗をかいてほっとしたので一杯で、ぐったり。 
 (つづく)