まつやにて(前の記事の続き)

 今度こそはと、いつもは高くて食べられない天せいろ(1,900円)を張り込む。
 海老天ぷら2本にせいろ1枚。
 ここの天蕎麦以外は食いたくない。この海老天が最高なのだ。
 蕎麦つゆは、普通はあったかいのだが冷たいのも選べるというので、冷たいのにしてもらった。
 つゆに油が混じって蕎麦を食べるのが嫌なので、先に蕎麦を食べ、蕎麦猪口(天そばだとつゆは大きめの器で出てくるので)を別にもらって蕎麦湯用につゆを分けておいて、あらためて海老天を食す。
 極楽なり。
 それに、この店は、入れ込みだが、店員のサービスが実にきめ細かくもさりげないという、奇蹟のような店である。
 そもそも相席が基本のあの小さい店で見事に客を着席させ、注文は絶対に間違わないし。
 蕎麦湯を入れた湯桶(相席が基本なので、数人で1つを使う)の、実は底の方においしいところがたまるので、お行儀はよくないがぐるぐる横に回していたら、
「熱いのをお持ちしましょうか?」
と言って、替えてくれたり。
 上野池之端「藪」、浅草並木「藪」、そしてこの「まつや」は、店員さんがみんな落ち着いたおばちゃんと、「まつや」には清楚で賢そうな若い女性がいる。実はこうした店員だからこそ通っているのだ。
 思えば、この「まつや」は、妊娠が発覚する数日前に来たのが最後だった。しかし何故新蕎麦をとろろで食っちまったのか自分。
 このとろろが絶品で、それだけ飲んでも最高に美味いし、蕎麦湯を加えてもこれまた絶品なのだが、やっぱり新蕎麦の香りを味わうのだったら、普通のお蕎麦の方がよかったかな?なんて、後から考えたりした。
 その時は…
 向かいに座ってた(私が来られるような時間から蕎麦屋で飲んでるんだからよっぽど暇な公務員か何かだろう)おっちゃんが、
 せいろが運ばれてきた途端に、
 全体に唐辛子を振りかけた。

 私が、テーブルを蹴ってそのおっちゃんを絞め殺したくなったのは言うまでもない。
  「まつや」の
 蕎麦を
 味も確かめずに
 唐辛子ぶっかけるんじゃねえー!!!!!!

 そんな奴に「まつや」の蕎麦を食う資格はねえ!!!!!!!
 (えー最近ホルモンの都合で口が悪いです)
 そもそも何処でだって、味も確かめずに調味料をかける奴は最低だ。
 あと、その日は、18:00からだからちょっと早いんだけどね、と、数人の初老の男性が、池波正太郎のナントカの会だと言って、「まつや」としては珍しく、確保してあったらしいテーブル席についた。やっぱりここは池波ファンには聖地らしい。そのナントカの会ってのも、「俺たちはただのファンじゃないんだぜ」みたいな空気が鼻についたけど。