清水義範とか歴史物とか

 下らないこと書いてないで…
 本の話。
 清水義範を相変わらずと、あと、文庫の巻末にある広告を参考に、何だか突然日本史の小説を読んでいる。
 あ、気がつくと、「歴史小説」って、読むの10年ぶり以上?大学の史学科に入ってからはこのジャンルが全く読めなくなってしまっていた。読めるのは山風とかの、知性に裏づけされた高度なはっちゃけのみだった。まあこれもトシのせいかなあ。余り拘らなくなったのだろうか。
 今ざっと思い出せるもののみ。

 清水義範『改訂決定版 笑説名古屋語辞典』(角川文庫)
 笑説 大名古屋語辞典
 あはは。これは解説のみならず、例文もよく選んであって可笑しい。最初は電子出版だったものが書籍になり改訂され、正にこれは決定版。「パスコ」=「敷島製パン」が名古屋のメーカーだったなんて!「グランパス」が「鯱」だったなんて!初めて知ったよ!なかむら治彦さんの漫画つきというのもいい。このなかむらさん、『まんがスポーツ』や『パロ野球ニュース』や東京中日スポーツ読者にはおなじみの、ドラゴンズ漫画の方。いや久々にお目にかかりました。

 清水義範『ああ知らなんだこんな世界史』(毎日新聞社)
 ああ知らなんだこんな世界史
 『週刊エコノミスト』連載。連載中に何度か読んだ記憶はあるけど、やっぱりこういう歴史こぼれ話はまとめて読んだ方が面白い。日本における「世界史」とは実は単に「ヨーロッパ史」+「近代アメリカ史ちょっと」+「中国史ちょっと」に過ぎないことを清水さんは度重なる中東旅行の経験から力説しておられるが、本当にその通りだと思う。これは中東から正しく見た世界史。早速相方にも読ませている。

 清水義範『上野介の忠臣蔵』(文春文庫)
 上野介の忠臣蔵
 これも歴史見直しもの。吉良上野介は、実際にはほとんど任地にはこなかったにせよ、愛知県縁の人。この作品は、あの仇討ち事件を清水一学の立場から描いたもの。誤解。悲恋。何て切ないんだ!

 この他、ピカレスク短編集の傑作『MONEY』、本当に上手い『日本ジジババ列伝』などなど。
 MONEY 日本ジジババ列伝

 清水義範福沢諭吉は謎だらけ。 心訓小説』(小学館)
 福沢諭吉は謎だらけ。心訓小説
 かの有名な「福沢諭吉の心訓」はニセモノだった―――そこから始まって、福沢諭吉人間性に(結構)するどく迫る、でもお勉強じゃない小説。
 次の『漱石』とも大いに関連する、というより、むしろ双子みたいな作品と捉えられる。
 『風雲児たち』読者には諭吉の育ちはもうお馴染みだろうが、あの、武士ながらお金に拘らなくてはいけない暮らしという変わった育ちと、その後の彼の思想や教育のあり方が実に上手く解き明かされている。あ、元々清水さんって、お金と人間とか、仕事と人間とか書かせたら天才だもん。漱石同様、諭吉もまた「お金にうるさい」と言われた面があるらしい。でも実際には、お金なんてキライだった。キライだったからこそ、きっちりしてしまう、それが端から見れば「金にうるさい」「金に汚い」になってしまうカラクリ。うーんそうだったのかと納得するし、私自身すごく身につまされた。『漱石』と合わせて、是非是非読んで欲しい。お金に余裕があれば、みなもと先生にお送りしたい(笑)

 清水義範漱石先生大いに悩む』(小学館)
 漱石先生大いに悩む
 こっちの方が『諭吉』より先。「文学探偵」シリーズ初回作。
 ある日、語り手である作者は、知人から、漱石からある女性にあてた手紙を手に入れる。その内容の謎を追ううちに現れた、漱石にかの『吾輩は猫である』のインスピレーションを与えた女性の存在。だがその女性は、作品を見ることなく自殺していた…
 漱石とお金。僅かな行き違いによる死。といっても、そんなに暗い話ではない。ああ正に、文学をこんなに上手く扱っても清水ワールド。心に沁みる。

 星新一『きまぐれエトセトラ』(新潮文庫)
 エッセイ集。再読。前回読んだ時は気にも留めなかったのだけど、山田風太郎から献本のエピソードが。「同世代の尊敬する作家だが、新刊を送り合うほどではない」という山風から珍しく送られてきたのが、かの『同日同刻』。とすると、山風としてもあれは相当の自信作だったんだろうなあ。

 杉本苑子『天智帝をめぐる七人』(文春文庫)
 天智帝をめぐる七人
 天智天皇が極悪人であることがよくわかる作品(笑)。本人ではなく周囲の7人から見た天智天皇、のオムニバス。大化の改新から壬申の乱直前まで。最近では蘇我氏=横暴悪玉、の図式も相当に崩れてきているのは、私としても嬉しいことです。この短編集でも、冒頭の作品で蘇我鞍作(入鹿のこと。入鹿とは蔑称)がちゃんと描かれており、軽王子との友情も泣けた。

 ケイレブ・カー 山川美千枝訳『シャーロック・ホームズ メアリ女王の個人秘書殺人事件』(学習研究社)
 シャーロック・ホームズ メアリ女王の個人秘書殺人事件
 ホームズ・パスティーシュの新刊。エディンバラで、悲劇の女王にまつわる陰惨な殺人事件の再現のような謎の殺人に挑むホームズ。しかし…やはり軍事マニアな作者らしく、解決編が強引に武器ネタ。「結局これがやりたくてホームズのキャラを借りたのね」という点が見え見えで、やや不快ともいえる作品だった。ホームズ・パスティーシュって本当に気持ちのいいものと、「何コレ?」の差が激しいのかもなあ。

 レジナルド・ヒルの新刊『異人館』(ポケミス)が1月に出ていたのを先日書評で知り早速借りた(未読)。これはダルジールものじゃなくてちょっと怖いノン・シリーズのようですね。でもダルジールものが、2作ぐらい前からもう本格じゃなくてサイコ・サスペンスになっているので大して違いはないか…ああレジヒルよ、本格推理に帰って来ておくれ。

 そうそう、ローレンス・ブロックのマット・スカダーものも新作が出ていたので読んだ…んだけど、読んだだけ(笑)。あああああ早くバーニイものとケラーものが読みたいようううううう。

 筒井御大もついこないだ新刊が出てまして、届くのを待ってるところ。
 巨船ベラス・レトラス