あの朝ドラの、許せる嘘と許せない嘘 その1

創作落語はあんなもんじゃない」
 こう思っている人は、多いと、思う…
 あくまで、このネタで国営放送に喧嘩売ってる…わけじゃないぞー。ないぞー(エコー)
 快楽亭ブラック師匠曰く…
 同じ、「落語を使った物語」でも、朝ドラには嘘が多く、「しゃべれども しゃべれども」には嘘がない。
 のだ、そうである(お返事より)。
 うーん。あながち間違いとは言えないけれども。「しゃべしゃべ」も、嘘がないというより嘘を入れてる暇がないとも言えるし(笑)(ロケ地が地元なのは嬉しい)。ただ、私も確かに、「しゃべしゃべ」の方がはるかに好感持てます。あれは素晴らしかった。同じ「落語を使った物語」でも、なーんか…違う。うーん。
 主人公がちゃんと落語というものを理解しているかどうか、の違いか。
 三つ葉君は、落語を愛してもがいている。けれど、朝ドラのヒロインは… 
 まず、私には、肝心のヒロインが一向に落語が上手くなってるように見えない、だから結局創作落語に「逃げた」とようにしか見えない、というのが最大の不満。
 「女性がいかに落語をやっていくか」という話なのに、肝心の「女性と落語」の部分が結局なあなあになったまま、結果として兄弟弟子人気で引っ張っている(舞台の人が書くTV脚本って、いつもこういう、「群像劇だから」という言い訳がつきまとうのは何故だろう)。
 そもそも、朝ドラのヒロインというのは、毎回、
 ・「男(主に男性の職業)の世界に挑んで玉砕」(今回はこのタイプ)
 ・「自分の夢を諦めて嫁入りして頑張る」
 ・「ちゃんと社会的に認められる仕事を持っているのに、そっちじゃなくて夫に尽くすのがよしというドラマ」
の、大抵どれかでしかない。ストーリー知ってるやつだけで言うと、1番目は今回のと「天○○ら」、2番目は「どん○○れ」、3番目が「○え○○ぼ」。
 つまり、女のドラマと言いつつも、この国の方針なのか、実はヒロインが「職業の男女差別」「女は家庭」という日本の不文律という壁を越えないという、恐るべきパラドックスシリーズなのだ。
 その上、何が腹が立つといって、今回のヒロインが、
「普段面白いことがあったら、それをそのまま話せば創作落語になる」
という誤解を広めていることだ(裏を返せば、「楽しい身内に恵まれていないと、面白いことは話せない」とも)。これは罪が重い。元々そういう誤解はあるのに、更に…。
 昨今、お笑いの人の中にも、「周りに面白い人がいないから面白いネタが作れない」とか言う人もいるそうだ。昔のお笑いの巨匠たちが聴いたらどんなに嘆くことやら。(って私が偉そうに言えることでもないが)
 創作落語というものは大変なのだ。ある意味古典よりも。
 小説の分野でも、私はたまたま、素晴らしいのに下らないと言われ、「ブンダン」からは正当な評価を受けていない作家ばかり何故か好きなので、余計よくわかる。
 パロディの才、ひねり、技、知性。特に、パロディや高度なひねりの才能というのは、評価されるのも理解されるのも難しい。パロディやひねりは「本物」を理解していなければいいものはできない。けれど、そこまで理解できる教養を持つことも難しい。
 これは、創作落語の立場の難しさとそして面白さにも通じるのではないだろうか。
 面白い創作落語は、本当に死ぬほど面白い。持てるものを全て駆使して作り上げる逸品である。(ファンの落語家さんはこちら)
 だが。
 このヒロインは自ら、自分の創作落語について、
「そのまま喋っとるだけ」
と、堂々と言っている。
 ば か か
 ヒロインについては、こないだ、別の若手の師匠(柳○←好き(笑))にチクッとやられてて胸がすいたのだが。
「古典も身についてへんのに」
って(柳○としては意地悪で言ってるのではないが)。
 どっかから突っ込みが入ったか(あれでは古典をちゃんとできるようになったとは言えない!と(笑))、脚本家自ら、ツッコミを予測してフォローしておいたのかわからないが(笑)。
 それにあのシーン、サラッと言ってしまった、もしかして尊○の方に言ったと思ってる人も多いかもしれないが、あれはヒロインを見てヒロインに言っているのだ。
 そうそう、尊○という、古典も新作もやれる若手も出していたり、やはりフォローには苦労しているのだろうか。フォローしなければいけないような脚本もどうかと思うが。 
 そうそう、「タイガー&ドラゴン」も、主人公(副主人公?)である、思うところあって落語をやめている岡田君が、実は落語を愛し、凄く理解しているからいいドラマになっているのだ。あのドラマは、肝心のところがしっかりしているから、見る側も本筋を見失わずにいられるのである。
 それに比べて、今回の朝ドラは…
 ヒロインが、「女が落語をやる難しさ」に正面から挑むのでなく、創作落語に走るのは百歩譲って許すとしても、その創作落語をとうとう正しく描くことができなかった。それ故に、いくら周囲からフォローしてみても、「ヒロインが落語を通じて、自分の人生の主役になっていく」という本筋をちゃんと伝えたドラマとは言えない。
 その他、私は上方落語のことはよくわからないので、落語界の細かい所の嘘(いや、ブラック師匠が仰るのも、創作落語の扱いについての上記のような問題かもしれないが)をはっきりと指摘することはできないが、確かに引っかかる所はいくつかあった。
 一つだけ挙げると、「師匠」と呼ばれるのが、まるで年齢によるかのように、あるキャラクターが説明していたシーン。「そう呼ばれてもおかしくはない齢」と…。おいおい。
 上方落語界には東京と違って明確な序列の名前がない(東京だと、前座・二ツ目・真打)けれど、その分、客が認めて何となく序列のようなものが認識されると、ドラマの公式サイトでも解説されていたが、それなら上記の登場人物もそう説明すればいいのであって、あのくだりだけを聞いていると、四番弟子が、「30半ば過ぎ」という年齢になっただけで師匠と呼ばれているかのようだ。(あとこの場面では、入門して6年以上経っているのに、ヒロインが、落語家の弟子の順を「年齢順」だと思っていた…というとんでもないミス?がある)
 まあそれはいい。
 私がもっと気になっているのは、弟くんのエピソード。次の記事へ続く。

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