泡坂妻夫『卍の魔力、巴の呪力―家紋おもしろ語り』(新潮選書)

卍の魔力、巴の呪力―家紋おもしろ語り (新潮選書)
卍の魔力、巴の呪力―家紋おもしろ語り (新潮選書)泡坂 妻夫

新潮社 2008-04
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 今月3日にお亡くなりになってしまったので、泡坂ブームが再燃。今、新しい本を中心に図書館で借りているのだが、読んだ本のリストと比べると以外に読んでない…。もっと読もう。というわけで暫く読む。
 今日読んだこの本は、勿論推理小説ではなく、本業、というか家業にまつわるとても面白いもの。
 家紋は美しい。正に日本の文化。魂。それでいてシステマチックでもあり、遊び心もあり、数学的面白さもある。本当に魅力的なものだ。
 よく、齢を取ると「自分のルーツ調べ」を趣味にする人がいるが、そういう人がよく頼りにするのが家紋。しかし私は、(趣味が老けているので)中学生の時に『日本家紋総覧』(新人物往来社)だって持っていた、その上で思うのだが、現代の日本で、家紋をよすがに先祖を探そうというのはほぼナンセンスに近いものである。よっぽどの由緒ある家柄でない限り(調べたがる人は自分がそういう家柄だと思いたいのかもしれないけど)、家紋なんてどこかの時点で勝手に決めたか何かしたのであって、今更逆に辿るための根拠になんぞならない。家紋の、この本にもあるような文化的価値は西洋の「紋章」に勝るとも劣らないのは事実だが、はっきり言ってルーツ調べのツールとしては、あちらの紋章ほどには価値を持たない(特にイギリスの紋章に至っては、王立の機関が厳しく管理しているほど、その成り立ちや意味が現在でも正確に伝えられており、ルーツ調べには大いに役立つ。勿論、紋章を持っているような家の場合なら)。
 もう、家紋は、その美しさ、デザイン性、それに昇華された日本人の美意識と職人の腕を楽しめばいいんじゃないかと、この本を読んでますます思った。
 ちなみにうちの実家(つまり父方)の家紋は「丸に橘」だが、我が家が日本人の四大ルーツ「源平藤橘」の1つの流れだなんて思っちゃいない(大体今名前に「藤」がつく人で本当に藤原氏の子孫の家なんてどれぐらいある?)。母方の家紋は「線蝶」。じいちゃんは岡山だし蝶は池田の殿様の紋(但し殿様の場合は正面からの蝶で、「線蝶」は横から見た姿)で、蝶はそもそも平家で…なんて想像をするのは楽しいという程度だ。
 そして、我が家の最も正確な祖先の家紋は、イネちゃんの代までは、あの有名な香合に描かれているように、襟につけていた、六芒星の下に盾、その盾の中に「ペンを持った手」という、西洋の紋章の中でもかなり変わったものであった。
 先祖のことなんか、好きで知る必要はない。そう思うのは、私の祖先がわかりすぎているからかもしれないが。