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 高橋克彦『蘭陽きらら舞』(文藝春秋
 

蘭陽きらら舞
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文藝春秋 2009-02
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おすすめ平均 star
star春陽、再び登場です
star人情話+幽霊譚

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 名づけるならば「仙波様&画家シリーズ」かな。長編『だましゑ歌麿』に始まる、名同心仙波様、おこう、春朗(後の北斎)らレギュラーによる姉妹編短編集数作。短編を細かく並べ直せば時系列順にもなるのでしょうが、一応は「同じ世界で起こる話」にとどめておけばいいでしょう。できれば先行作品を全部読んでおいた方がわかりやすいです。
 時代は田沼政治の後、定信ちゃんの締め付け政治下。『だましゑ』を筆頭に、もう正に、『風雲児たち』ファンのためにあるんではないかという「副読本」っぷり。いや「副」と言っちゃあ高橋先生に申し訳ないってもんですが、要は、片方を読んでいると片方が余計面白いっていう。特に、『だましゑ』の幕切れの台詞は素晴らしい。現代でも変わらない、そもそも人は何のために働くのかということを、これほど正確に言い当てた言葉を私は知りません。定信ちゃん、清澄白河の墓の下でようっく聴きなよ(笑)。
 短編集『おこう紅絵暦』、『春朗合わせ鏡』ときてこの『蘭陽』ですが、相変わらず舞台のどの部分にも眼の行き届いた、非常にバランスのいい、ストレスのたまらないシリーズです(この、読んでてストレスがないって一番大事よ)。画家・春朗とその大親友、というか「悪友」というのが一番の、女形役者蘭陽。この短編集も基本的には謎解きなんですが、そもそも、仲間たちの友情、勇気、そして不自由な時代を精一杯自由に生きる心がメインなんじゃないでしょうか。と書くといかにも爽やかな話のようですが…別に爽やかでも教育的でもなくて(笑)。猥雑な「業界」(今回は演劇界)を中心に、人情もあり、なかなかいかがわしい生臭いパートもありつつ、でもやっぱりかっこいい謎解きをしてくれます。連作短編なので、話は蘭陽をめぐって全体に繋がってはいます。
 蘭陽は、女形なのですが中身も喋り方も滅茶苦茶男っぽいので、読んでるだけなら女形であることを忘れます。『黄門☆じごく変』の阿修羅みたいだわ(笑)。そんな彼に振り回されつつも離れられない春朗(別にそういう関係じゃないですよ(笑))。この2人の友情がいいですねェ。からっとした江戸っ子だし。
 非常に気持ちいのいいシリーズですんで、どんどん続いて欲しいです。
 なお、『だましゑ歌麿』は先日ドラマ化されまして、録画しておいたのをやっと昨日観たんですが、まあ悪くはなかったですね。まず、画面作りがそんなに安っぽくなかったし。仙波様が中村橋之助というのも、言われてみれば妥当な所。鈴木杏樹も綺麗でした。まあ原作のおこうちゃんはもうちょっと可愛い感じもしますけど。しかし仙波様の父上(ご隠居)が、いかにも「必殺」シリーズのような母親になっているのは、折角まあまあできたドラマなのに、続編を期待したくなくなります…
 
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star江戸時代に思いをはせる
starおもしろい★5つ
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starうーん本当は星3.5!
starちょっと物足りないかな
star可愛いだけじゃないよ!おこう

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star中編ぐらいにしておけば・・・

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 最初から何となくはわかっていたものの、浅見ものとしては割と珍しく「ギルティ」というより「インモラル」な方面に行く話。でも逆に、主人公というか狂言回しが浅見氏だからこそ気持ち悪くはないというか。