2/19

二重標的(ダブルターゲット)―東京ベイエリア分署 (ハルキ文庫)
二重標的(ダブルターゲット)―東京ベイエリア分署 (ハルキ文庫)
角川春樹事務所 2006-04
売り上げランキング : 61618

おすすめ平均 star
starベイエリア分署シリーズファンになった!
starベイエリア分署シリーズの第1作、待望の復刊。
star新たな警察小説の先駆け

Amazonで詳しく見る
by G-Tools
 安積班シリーズ第1作。私が読んだのは古いケイブンシャ文庫版ですが、現在はハルキ文庫から復刊されています。
 ケイブンシャ版巻末解説にもあるように、これは「日本版87分署」と言ってもいいかもしれません。「ベイエリア分署」と揶揄の意味で言われているのも(日本には「分署」という制度はない)、むしろハクがつくぐらいでよろしいのではないかと。つまりこの、湾岸地域の宅地化や発展を見込んで作られた安普請でちっぽけな「分署」は、いつも他の所轄のサポートばかりに駆りだされ、美味しい所は全部持ってかれてしまうのですが、安積警部補以下みんな頑張っているのであります。その忙しさと割に合わなさが嫌と言うほど強調されているあたりも、87分署っぽい。
 安積警部補は非常に魅力的なオッサンですが、周囲の面々もよく描けていて、これは本当に警察小説だなと思います。
 交通機動隊の速水さんも勿論登場。男の友情であります。
 ただ1つ注意。この『二重標的』のネタバラシが、『虚構の殺人者』か、『警視庁神南署』か、『神南署安積班』のどれかにあったので(細かい所があやふやで申し訳ない)、シリーズはできればこの『二重標的』を最初に読んで頂きたい。見事にネタバラシされてしまって、この『二重標的』でのトリックはわかっていたのですが、第1作ですしまあキャラとチームワークがいいので読めたことは読めました。しかし自分の作品だからって他の作品であっさりネタバラシするのはやめてくれ〜、今野先生。
 湾岸、といえば有名な某TV・映画シリーズがありますが、あっちの方がこっちにインスパイアされてるんじゃないですかね。まあこれに限らず、TVドラマなんてのは、コツコツ個人で調べてちゃんと書いてきたもののいいとこ取りを簡単にやっちゃう、というかもうほとんどそれだけで出来ているようなもんなので、ネタが割れてみると結構みっともないのですが、TVや映画だけ見てちゃあそういうことはわかりませんね。
 但し、局としては嫌いですがTBSの「ハンチョウ」は割と良心的に作っている方じゃないですかね。キャラもまずまずのキャスティングだし(但し特撮出演経験者多し(笑))。まあ毎度脚本はいかにも「水戸黄門枠」な人情オチに流れる傾向はありますが、それでも毎回そこそこの出来だと思います。
 ケイブンシャ版解説には、「TVの刑事ドラマが好きな人には受けないだろう」とありますが、これも人によるかなあ。確かに私もTVの刑事物は馬鹿馬鹿しいので全く観ませんが、「ハンチョウ」好きで本を普段から読む人なら結構この原作シリーズは読むんじゃないですかね。細かい情報もかなり入っていますが、今野先生の文章というのは語り口が上手くて引き込まれるし、ドラマにそのままできそうな感じもあるし、「ST」のような、モロに漫画、ドラマチックな作品もある。いいエンタテインメント書きです。
 あとこのシリーズのちょっと不運な所は、結果的に、先取りをしすぎていることですね。ベイエリア分署こと東京湾臨海署は、結局湾岸エリア開発のアテが外れて、安積班はほぼ丸ごと神南署(これもまた、周囲の署の負担を減らそうと新しくできた管区で、またもまたも引っ張りだこの貧乏籤状態になるわけですが)に異動して、後の作品になります。
 でも実際、某あっちの湾岸の方は健在で、また映画もできるそうですし、湾岸エリアはお台場とその周辺として、まあヘンに開発されております。そして現在は、何と「ベイエリア分署」と同じ江東区青海に実在の「湾岸署」もありますし、夏以来某事件ですっかり有名になりました。結局、この湾岸エリアの再開発って、どのへんがアテが外れてどのへんが実現してるのか、よくわからないんですが(笑)。確かに、有明あたりとか、見たまんま建設途中でぶった切れてる高速(かなりSFチックな光景…)とか広大な空き地とかありますけどね。そういえば水上警察も縮小とかって…私の勘違いだったか、ちょっと不確かですが。人の動きってのは全くもって読めないもんで、そこへ取り締まりの枠を作るという作業も難しいものです。