E.D.ホック、木村二郎他訳『夜の冒険』(ハヤカワ・ミステリ文庫)
現代短篇の名手たち8 夜の冒険 (ハヤカワ・ミステリ文庫) | |
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短篇はキレが勝負なのでどうしてもそうなるのでしょうが、暗いというか陰惨なというか、救われないオチも多い。
今更説明不要ですが、ホック大先生は、史上唯一そしてこれからもまあ現れないであろう「短篇プロパー」。長編はほとんどなく、2008年に78歳で亡くなるまで、ひたすら約950編もの短篇で食っていけた、海外短篇界の星新一みたいな人です。
この大先生は、シリーズ物が多いし有名で、私が読んだのもシリーズ物ばかり。ノン・シリーズ自体が珍しいとも言えます。
今作で私が好きなのは巻頭の「フレミング警部最後の事件」で、シリーズキャラでもなく、短篇なのに、仕事一辺倒の警部の引退寸前の心情を見事に描き、1つ1つの表現が見事に結末(オチ)に実は繋がっているという、短篇の見本パターンの1つのような作品。あと、「くされ縁」もよかった。
短篇というのは、短いのに何と豊かな表現方法なのかと、あらためて思わされました。
ホック大先生のシリーズものについてちょっと書いておきますと。
私のイチオシは「怪盗ニック」シリーズ。ニック氏は、黒い眼に黒い髪の、イタリア系アメリカ人泥棒さん(勝手に、ある程度美形だと思ってます)。「金目のないものしか盗まない」というのがポリシー。そんな彼に、ちゃんと依頼は来る。おもちゃのネズミ、昨日の新聞、公演の終わったチケット…。「何故そんなものを盗む必要があるのか?+いかに盗むか?+思わぬ事件に巻き込まれて謎解き」という、離れ業を毎回やってくれるんです。ニックは私の心の恋人の1人です(笑)。未訳のものがまだあると思うので、出版を望みます。
で、ニックシリーズはひたすらアッと言わされていればいいのですが、「サム・ホーソーン」シリーズになると、アメリカの田舎の何でもお医者さんという雰囲気は暗くないものの、殺人そのものや動機においては暗い、キツいものもあります。「オカルト探偵サイモン・アーク」シリーズに至っては、主人公が何百年も生きているとか、雰囲気も暗い。
今回のノン・シリーズも、他と比べてすご〜く暗いわけではないのかもしれません。いや、もしかしたら、このシリーズが暗いのではなくて、私の受け取り方というか、ハードルが変わったという可能性もあります。ブロックの短編集も既に何冊かありまして、全部読んでいますが、確かに、明るいわけではなかったと思います。私が所謂短篇の「キレ」「見事なオチ」を「暗い」としか思えなくなっているのかもしれません。気持ちの問題ですかね。
ちなみに、ホック大先生は、「長編になるとつまらない」なんて言われたりもしますが、まあ私も読みましたが、面白くないというか、短篇が余りに凄すぎるんですかね。
別名義を使うことも結構あり、中でも「エラリイ・クイーン」名義まであるってのは凄いですね。このクイーン名義の長編『青の殺人』は、確かもう「クイーン名義・監修によるホックの作品」と、あとがきか何かに書かれていたような。ホック大先生がクイーン名義を借りた、というのではなく、当時もう、クイーン名義で作品を製造する「クイーン工房」的なもののメンバーが数人いた、ということもそのあとがきにあったような。まあ、私も、『青の殺人』は面白いとは思いませんでしたね(笑)。クイーンじゃないから面白くないとか、クイーンより面白くないとかではなく、単純に、凄い作品ではなかったということ。(クイーン作品にも色々議論はあるようですしね…私はクイーン作品は全般に好きだし、後期作品も好きです。)
あと、この「現代〜」シリーズ、既に出ている人気推理作家2人の作品、つまりM.Z.リューイン『探偵学入門』、イアン・ランキン『貧者の晩餐会』は、既刊とタイトルが同じ。前者はわざわざ文庫化したのに大幅に作品数が削られ、後者は内容が若干違うという、全く意味不明なラインナップ。早川も、今に始まったことじゃないかもしれないけど、こういう読者騙しの新刊をやるのね…。
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