E.D.ホック、木村二郎訳『サム・ホーソーンの事件簿6』(創元推理文庫)

サム・ホーソーンの事件簿VI (創元推理文庫)
サム・ホーソーンの事件簿VI (創元推理文庫)エドワード・D・ホック 木村 二郎

東京創元社 2009-11-30
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おすすめ平均 star
starさよなら サム・ホーソン先生

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 おしまいです。このシリーズはおしまいです。そういえば作者は2008年に亡くなっているのでした。
 ホーソーン先生は、シリーズキャラの多いホック作品の中でも、一番有名…と言っていいのかな?いや、ニック・ヴェルベットと双璧、かな?(そういえば先日、突然読みたくなって『怪盗ニック登場』を読みました)
 アメリカの田舎のお医者さんの回想、という形だと、一見ほんわかムードかと思いきや、真相には人間の醜い心の錯綜が描かれている…というのがパターン。元々、必ず少人数の集まりで殺人事件が起こり、当然容疑者も限られ、しかもホーソーン先生の知り合いばかり…なので、実はほぼ毎回、先生は辛い役回りなのです。この最終作で、ホーソーン先生は晩婚ながら結婚しますが、奥さんも流石に、事件が起こるたびに解決してしまう「ノースモント一の探偵」である夫には、時々愛情ある揶揄を投げています。そういえば、先生とコンビを組むベテラン保安官も、先生に立会人を頼んだばっかりに?結婚式直後に殺人事件に見舞われてましたなぁ。
 そんなこんなもあり、毎度毎度事件の尽きないノースモントですが、先生にはこれといった問題なく、作者の死によってシリーズは終了。まあ、そういう方がいいのかもしれませんね。
 なお、本作は、二次大戦、主に日米開戦後を舞台にしており、戦況も平行して語られているのが、日本人としては興味深いです。勿論、日本の読者に人気があることも作者はわかっていましょうし、作品とはそんなに関係があるわけでもないので(1作、真珠湾で息子が戦死した夫婦の話がありますし、先生の新婚旅行も真珠湾攻撃で中止になってしまうのですが)、日本人が傷つくということはないです。ただ、戦争中ならでは、というお話が1つあって、これはホック先生の大いなる遊び心です。
 そうそう、忘れてはいけません。先生が結婚したからには、ああいうお話も…(奥さん、命知らずやな〜)
 巻末解説にもあったように、これからはサイモン・アークシリーズや、いつか出るかもしれないニックの未刊行作品の短編集でも、楽しみに待つことにします。