平井杏子『アガサ・クリスティを訪ねる旅 鉄道とバスで回る英国ミステリの舞台』

 大修館書店から、今年刊行。

アガサ・クリスティを訪ねる旅―鉄道とバスで回る英国ミステリの舞台
アガサ・クリスティを訪ねる旅―鉄道とバスで回る英国ミステリの舞台平井 杏子 本田 亮

大修館書店 2010-03-19
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 「女性が書いた」「アガサ・クリスティーの現地話本」というと、「んっ。」と思わず身構えて読んでしまうのには、わけがある(あくまで個人的にですが)。
 いや…以前、「カス本」に出会ってるのですよ。女性の書いたそういう内容の本でね。クリスティーがどうのっていうより、結局、「イギリスに住んでるアタシ」の自慢本でしたわ。その本にはAmazonレビューも書いてます。まだ残ってればだけど(Amazonレビューは時々古いものが消える…)。
 この本もですね…
 いや、のっけのハ〇ポタネタでドン引きした他は、まともな本でしたよ。
 そのドン引きというのは、ロンドン・パディントン駅(郊外・地方への出発点となる、地上線のパディントン駅)を、例の電車が出るホームに喩えてるんですね。旅に出るワクワク感を書くために。
 こういう、安っぽいというか、古くなってしまうような喩えをわざわざ使わなくたって、同じことは書けるはずなのにね。ちょっと読者を安く見ているようで嫌です。この本が相手にしてるのはクリスティーの読者。わざわざ卑近な喩えを出さなくたって言いたいことはわかります。
 と、いきなり怒っててもしょうがないけど、むしろ、この本がちゃんとしてるからこそ、こういう安っぽいくだりが余計だったなと思ったのです。
 また「このテの本」と言いますが、このテの本でまともにできてるこの本は凄い。言い換えると、こういう「メジャーなテーマで」、「女性がほぼ女性向けに書いている」本というのは、簡単に違う方向に流れていきやすい(冒頭に挙げたカス本のように)し、流れちゃっていても結構通用しちゃう(=売れちゃう)という面もあるので、書く側はよほど真面目にやらないといけない。その点、この本は最初から最後までテーマを外れることなく、地道に書かれている。つまり真面目。
 これ、私においては最大級の賛辞です。
 ありそうでなかった、わかりやすいガイドブック。見えてくる光景と作品、或いはクリスティーの人生との重ね方に無理がなく丁寧。物理的なガイドでもあり、クリスティーという女性への心理的ガイドブックでもある。舞台を訪ねる、という本は以前にも1冊あったし読みもしたのですが、この本の方がよりクリスティーを訪ねる旅として相応しい内容だと思います。
 巻末に挙げられた参考文献でも、この本を書くために必要なのに読み逃している本はないということがよくわかるのもいいですね。(この参考文献のリスト自体、まだクリスティー関連の本を余り読んだことのない人にはいい手引きになるし。)
 ほとんどが著者による写真も、とても綺麗。
 多分、イギリスのことですから、この本を手に実際に訪ねることができるのが30年40年後でも、鉄道の路線なんかはそうそう変わらないでしょうし、主な舞台は郊外と田舎なので、やっぱり景観も大差はないような気がします。実際に住んでいる人は、短いスパンでも随分変わったことを知っているでしょうが、外から眺めている限りは、クリスティーの生まれた頃から100年は、そんなに変わってないようなイギリスの地方。そんな安心感もイギリス。
 生きているうちに一度はイギリスの郊外や田舎に行ってみたいとは思ってます。ロンドン観光は2回していて、ホームズへの旅でもありましたが、ロンドンの外となるとクリスティーへの旅になるでしょうか。その前にこの本をまた、熟読しておきたいものです。

 …あと、話はずれるけど、原書房の『ミステリ・ハンドブック アガサ・クリスティー』も、『同 シャーロック・ホームズ』も、何で今年「新版」が出るのさ…(1999年のは持ってるから、新しいのは買うかどうか…)

アガサ・クリスティー ミステリ・ハンドブック
アガサ・クリスティー ミステリ・ハンドブックディック・ライリー編 パム・マカリスター編 森 英俊 監訳

原書房 2010-04-22
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ミステリハンドブック シャーロック・ホームズ (ミステリ・ハンドブック)
ミステリハンドブック シャーロック・ホームズ (ミステリ・ハンドブック)ディック・ライリー&パム・マカリスター 日暮雅通監訳

原書房 2010-05-21
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