E.J.ワグナー、日暮雅通訳『シャーロック・ホームズの科学捜査を読む』(河出書房新社)

シャーロック・ホームズの科学捜査を読む
シャーロック・ホームズの科学捜査を読むE・J・ワグナー 日暮 雅通

河出書房新社 2009-01-17
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おすすめ平均 star
star訳がな……
star法医学好きにもシャーロキアンにもgood!
starホームズ的な視点

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 興味深い本ではあるのですが、内容が内容ですので、「オエ〜」な記述が多々。つまり、血とか内臓とか脳味噌とか蛆虫とか…うぐぐぐぐ。ちょっと思い出すの嫌です(^^;)。
 サブタイトルに「ヴィクトリア朝の法科学百科」とあるように、ホームズの科学的捜査についての鋭い論評、実践などを引用し、実際の事件でもこんなことがあった、実際の事件でホームズの手法を用いていたら?などなど、どちらかというと、法医学の曲がりくねった歴史、ヴィクトリア朝当時の実情(大抵はトンデモ)について、法医学の研究家(医者、科学者ではない)である著者が好きなホームズ物語を手がかりにまとめている、という感じ。だから内訳としては、ホームズ物語そのものよりは、実際に起きた事件の解説の方が多いです。ホームズ物語はふんだんに引用されているものの、「オエエ」な表現を我慢しながら通読して、あんまり「ホームズ関連の本」という印象がなかった…。
 当時の法医学というのが、今から見ればですがトンデモすぎるほどトンデモだった場合が多いので、読んでいて「あちゃ〜」の連続でした。野放しになっちゃう、常識的に考えれば明らかな犯罪者。無実の罪で処刑される人。(このあたりは、今でも怖ろしいことですね…。昔は法医学そのものがいい加減というか未発達の分野だったが故に間違いが多かったのに対して、今は、その科学を一番信じたが故に他の全ての矛盾には目をつぶるという、逆のパターンで冤罪や犯罪者の見逃しがなくならない…結局、何が正しいのか…一番必要なのは、現場の捜査と科学的検証の手順を正確に行なうこと、思い込みを避けること-このあたりにはホームズの言葉は示唆に富みます-裁判はあらゆるものを公平に考えること。それは結局、科学捜査があろうがなかろうが、同じことですが…)
 当時の余りといえば余りにひどい「科学」捜査に呆れ続けはするものの、面白くなくはない。
 時代を限った、法医学が焦点となった事件簿、というところでしょうか。結局は、またも、ホームズは法医学の分野でも、なかなか鋭い言葉と実践を連発している、ということがわかる(だけ)。ホームズファンでも楽しめないことはないですが、現実に起こった事件の陰惨さと捜査の杜撰さばかりが印象に残り、ホームズ物語と絡めている部分の記述があんまり記憶に残らない…。それとも、一度通読しただけでは深すぎるのか。読み返すのも、厚いしグロいから大変だけど。