絵・水木しげる、文・大泉実成『水木しげるの大冒険 幸福になるメキシコ―妖怪楽園案内』(祥伝社)

水木しげるの大冒険 幸福になるメキシコ―妖怪楽園案内
水木しげるの大冒険 幸福になるメキシコ―妖怪楽園案内大泉 実成 水木 しげる

祥伝社 1999-06
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 私は元々メキシコが大好き。フリーダ・カーロ(と、中華街で売っていた、ガイコツ人形が生きた人間のように普通に生活している小さなドールハウス)から入った。(但しこの本でのフリーダの紹介は余りにも短く、短いならせめてもっとわかりやすい絵のタイトルなりわかりやすい解説をすればいいもの、夫リベラの、わざわざ長くてわかりにくい評価を引用している。余計に、知らない人には全く何だかわからない。明らかに、リベラ、シケイロスら、他の男性芸術家にの説明に比べ、熱意がないのがわかる。)
 メキシコ好きな人は大体同じ理由で好きだ。死は生の延長で、笑い飛ばし、かつ、親近感がある。色彩感覚、死生観、とにかくもうぶっ飛んでる。
 死というものを、考えてはいるのだがどこかで「考えすぎる」ことをやめ、「今現在」とごっちゃにすると気が楽だし(死が生の延長であると同時に、死者は自分たちの身近にいつまでも生きている)、枠に囚われずに仮面で様々なものを表現する彼ら自身にも喜びがあるだろうし、表現されているものを見る我々には解放感がある。
 この本にも、水木先生が買い集めた仮面、仮面、仮面の数々がカラー写真で載っている。どれもこれももう、豊か過ぎるデザインのセンスに、「快感」と呼んでもいいような喜びを感じる。
 2005年頃に水木先生の『精霊の楽園オーストラリア(アボリジニ)』は読んだことがある(というより、漫画の方をまともに読んだことがなく、水木先生の著書としてはこれが最初)。「目に見えないものを形にする」腕にかけては、所謂大国でない方がはるかに上だということはこのメキシコ編でもあらためてわかった。死についても、多分はるかに自然に考えることができていると思う。眼に見えないもの、生きては体験し得ないことについての認識は、実感で生き、膚で感じる毎日を送っていないと、やっぱり衰えるんだなあ。衰えていない地域に「補給」しに行ける水木先生、流石、長生きである。
 私は元々都会モンなので、性格もせかせかしていて、またそういうせかせかした性格に都会の便利さはマッチしているから、齢を取るごとにせかせかの度は増すばかりで、然程不満はないし、深刻に疲れてもいない(と思う)。ただ、水木先生の「体内時計に反することをしている」という発言にも一理ある。(私の体内時計は元々都会バージョンなのだが、先生の謂わんとすることはわかる。)
 先生の求める、目に見えないものを形にできる世界(地域)=楽園であり、その楽園というのは「解放」と言えるだろう。本当は、存在するものをそのあるがままに受け止め、すると同時に人間も自然と一体化する。本当は、地球に生きているというのは、そういうのが正しいのかもしれない。人間は、知らないうちに、自分で作った枠の中で生きている。その中に当てはまる、収まる、しかも性質の悪いことに、収めることが気持ちよくなると、できるだけきっちりと隙間なく収まることに満足感を覚える。だが、そんな枠なんか、決まりなんか、最初からないんだよということを、楽園は教えてくれる。本当は楽園に行かなくても、そういう本を読まなくても、心の中にいつも楽園を持っていられるようにしたいものだが。
 楽園、といえば、水木先生的には、エプペは言うまでもなく、メキシコでも、美女である(笑)。私にはフリーダでおなじみの、テワンテペック地方の素晴らしい民族衣装。あれを着て醜い女性は絶対にいない。世界でもナンバーワンに限りなく近い色彩・図案の美しさと、古いものでありながらモダンで無駄のないカッティング。勿論、先生もご機嫌である。
 あとこれは別の場所でだが、男女のホニャララな姿の像を見て、
「これは人類の基本型です」
には大ウケした。確かになあ!全てはそこからだもんね!(ギュスターヴ・クールベだって「世界の始まり」という、そのものズバリの場所を描いた作品を残している。オルセー美術館に堂々とありますぜ!)
 先生はまだインドにはいらっしゃったことがないようだが、こうなったら是非是非、行ってもらいたいものだ。特にカジュラホに!
 …と…書いてはきたものの、私も所謂精神文化の豊かな場所は好きなのだが、オーストラリアの都市圏以外とか、南洋の島々とか、特に好きでもメキシコとか、実際に行く勇気はない。せいぜいハワイには行けたのだが。なので本で読む。それだけでも気持ちがいい。心にいつも、極彩色の解放と、青い空を。
水木しげるの大冒険〈2〉精霊の楽園オーストラリア(アボリジニ)―妖怪の古里紀行 (水木しげるの大冒険 (2))
水木しげるの大冒険〈2〉精霊の楽園オーストラリア(アボリジニ)―妖怪の古里紀行 (水木しげるの大冒険 (2))大泉 実成 水木 しげる

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