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「断腸亭」の経済学―荷風文学の収支決算
「断腸亭」の経済学―荷風文学の収支決算吉野 俊彦

日本放送出版協会 1999-07
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 分厚い(これが弁当箱なら正にドカ〇ンである)上に難しい(笑)。難しい経済の話はついナナメ読み(いつもこれだ…(笑))。ただ、『日乗』における金銭の話から、世相も見えてくる(のが、この本の目的)が、同時に、あらためて荷風の生き方が浮かび上がってくる。
 非常に現実的、冷静な観察者。本当に耽溺したら、作品というものは書けないのである。作り事で楽しませるのが作家。そういう意味では、自伝的と見せかけるギリギリラインで書くという彼の作風も、正に作家そのもの。遊びが取材を兼ねていたというか、止むに止まれぬアッチの衝動も止むに止まれぬ創作の衝動もあった頃を過ぎ、観察者としての面をより強めた最後の時期に入り浸ったのが、最低の部類に入る私娼窟であるという事実まで、何やら、できすぎにさえ思えるぐらいピッタリだ。
 特に、その最後の日々は正に私の今の地元。沢山の荷風作品を読んだわけでもないし、ちゃんと理解で来ているのかも自信はないが、山の手から見た(あくまで、彼はこうなのである)下町と場末、下町・場末彷徨―あくまでも旅人、であるこの作家との出会いは必然、と思ったり、また出会うことで地元にとても興味が湧いた。多分、実際に行ってみてはがっかり、の連続なのだろうが(市川の菅野では何故か荷風のバナーが商店街にかかっていたが家なんかは跡形もない。これは露伴の旧宅も同様。ただ、空襲を受けていない土地の佇まいとはこういうものか、という思いはあった)、行ってみたい場所ばかりである。