泰平と白日夢〜市川森一『夢暦長崎奉行』(光文社文庫)

夢暦 長崎奉行 (光文社時代小説文庫)
夢暦 長崎奉行 (光文社時代小説文庫)市川 森一

光文社 2000-01
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 1996年放映のNHK金曜時代劇「夢暦長崎奉行」原作です。正確に言うと、同じく光文社の単行本『夢暦長崎奉行 秋冬篇』と『同 春夏篇』を一緒にしたのがこの文庫(2000年)で、前者がドラマ原作となります。偽オランダ船入港事件を扱った後者は完結編として雑誌連載。著者は脚本の市川氏。この方は長崎県諫早市のご出身。うーんやっぱり長崎の方でございましたか。
 景晋に小林稔侍、息子・金四郎(後の遠山の金さん)に葛山信吾
 「二百年間、日本国中が鎖国の眠りに陥っている時、そのひとかけらだけが眠りを奪われ、禁断の夢を貪りつづけた町―――長崎。」(本文より)
 夢中の夢・長崎に赴任した奉行・遠山景晋は、松平定信から島津重豪らの抜け荷根絶を命じられていた。一方、景晋を逆恨みする将軍側用人・水野忠成を中心に、抜け荷で暴利を貪る一派は彼を失脚させるべく次々と長崎の地で奸計を仕掛ける・・・
 正に、江戸の敵を長崎で討つってやつです。
 シブくて強くて百戦錬磨な父もカッコイイし(でもドラマより原作の方がはるかにいいです・・・)、多感で純粋な息子も可愛くてカッコイイ!
 もうこれ、全編「これを葛山さんが・・・」の妄想で読み進んでしまった、というのも勿論ありはしますが、面白いじゃないか!!何で今入手困難かなあ!!
 この物語の軸は、やはり景晋と金四郎の親子の情。実子でありながら家督を継げず(養子である父が、養父の実子を嫡子に定めてしまったため)、多忙な父の愛に飢えて遊び人になってしまった息子と、彼に長崎で人生をやり直させようとする父。奉行は家族の同行を許されないため、金四郎は長崎では身分を偽って市井に暮らすものの、彼もまた否応なしに父を狙う陰謀に巻き込まれていく。口には出せずとも息子を愛する父と、本当はとてもいい青年なのに父を愛する故に道を踏み間違ってしまった息子の、親子の姿が泣ける。
 短編連作の形になっているが、本当にどれもいい話。
 これも島津がらみで、『文政十一年のスパイ合戦』に述べるまでもなく、まあ島津の抜け荷というのはメジャーな題材なんですな。維新も経済力だし。
 冒頭に挙げた文章は、本当に長崎という街の特性を一言で言い当てていますね。長崎出身の美輪明宏なんかも力説しているけど、本当に長崎というのは別天地だったみたいですね。日本の中の異国とまではいかなくとも、もう、日本で一番開けていて何でもあった。美輪明宏記憶の一例でいえば、麻雀牌とツェッペリン号の模様の着物にボブヘアーでハイヒール、なんちゅうファッションが戦前で普通にあって、その後数十年でやっと中央の方が
追いついた、ってな具合らしい。銀座のモボモガとももう根性が、歴史が違う。他の地方より300年も早く異国と接し、世界は広いのだということが、人々一人一人のDNAにしみ込んでいたのでしょう。
 うちの祖母も長崎出身で、80年前のあの当時で洋服に革靴にリボン、籐のバスケット。小さい時までしかいなかったのに未だに魚の味にうるさい。今でもものすごく、私なんかよりもずっとオシャレで服を買うのも大好き、スキンケアにも一切手抜きなし。三つ子の魂百までといいますから、育った環境は大事ですなホント…
 うーん、金四郎、カワイイよカコヨイよエロいよ!!あー大体全話見たはずなのにあんまり憶えてないのがめっちゃくちゃ口惜しい!!ああ、葛山さんがこーんなシーンをあーんなシーンを(だから違う)。
 特に、「桜吹雪」。これはイケマセン。18禁です。多分、ドラマではこのシーンはカットされたろうなあ、というシーンです。だって金四郎が××を××するために××する時に××しちゃって××よ!?最近のM谷と心中なNHKならともかく、あの当時はやらなかったでしょう・・・(というわけで気になる人は本編を読んで想像力で補いましょう)
 『風雲児たち』では金さんは彫物(こう書いてホリモノ。イレズミは刑罰なので、イレズミと言ってはいけません。刺青か彫物と書いて「ほりもの」と読みましょう)を初めてする時に「桜の代紋やっちくれい」と言っているのですが、この小説ではちょっと違います。最初の彫物がちょっと秘密があって、その後の事情で・・・(しかもただ桜なんじゃないんだなぁ、ああエッチい。)
 Amazon.jpにレビューもしましたが、朝、寝室から出たその足で書いたので訳の分からない文章です。