元祖ム●キング!「乱歩地獄」

 えー、「乱歩地獄」見てきました。去年の夏の乱歩展(池袋東武)で、タイトルとラインナップと出演者だけ刷られたちっちゃいチラシを貰って「をを!よりによってこんなのを!!」以来です。でも、「来年の秋かよ〜」と思ってから、やっぱり早かったですね。で、思った通りこっそり系公開なので(っていうか本当に日本って邦画の配給そのものが元気ないよな!)、うっかり見逃す前にと出かけてきました。
 乱歩の短篇の中でも、よりによって「火星の運河」「鏡地獄」「芋虫」「蟲」というオムニバス。知ってる人ならもうこれだけで興味津々でしょう。
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 But…
 「映画化不可能と言われた作品を完全映画化!」
が、ウリではありますが、結果としては、映像化ではなく、乱歩作品をモチーフにしたイメージビデオ…とまで言ったらいけませんか、しかし、あくまで作り手の解釈です。それが「映画化」ってことなんでしょうね。(「鏡地獄」を除く)。
 ”乱歩”と銘打った映画を見るたびに、乱歩の原作の偉大さをあらためて痛感するのもなんではありますが、いいんです。最も”ビジュアル”でありながら、決して一つの映像にはできないのがイマジネーションというものだし、すぐれたイマジネーション―うつし世は夢、夜の夢こそまこと(乱歩)―ほど、またいくつものイマジネーションを生む。そういう意味では、今回のオムニバスも”乱歩もの”と言って差し支えない出来ではあり、パワーはありました(このラインナップでパワーがなかったらその方が問題ですが)。どの作品も、作り手が乱歩作品を好きなんだってことはわかる、それだけでいいです(そういう気持ちがないまま作られる作品を最近よく目にするからねぇ)。「乱歩映画」と言えるのは、厳密には「D坂の殺人事件」に続く実相寺昭雄監督「鏡地獄」だけだと思いますが…
 以下、まあそのへんの、原作と解釈と映像化の狭間でどう思ったかってぇことを中心にいきます。

 ※「見たい!」と思っていらっしゃる方へ。「痛い系」・「虫系」・「標本系」・「血系」が苦手な方は充分ご注意下さい(だから!私もこういうの全部苦手だってば!!)。あと、R-15です。
 「究極のラブストーリー」と銘打っているだけあって、どの作品も、「愛の悲劇」です。それも恐らく、月並みではありますが、「愛しすぎてしまうことの悲劇」。まぁはっきり言えば文学作品全部がそうで、乱歩作品だって究極にはそうですが、今回は、特にヤバイ短編をモチーフに美しく狂気で、っていうことでしょうか。
 「鏡地獄」は、自分を愛しすぎてしまった男の悲劇。「芋虫」は、夫を愛しすぎてしまった女の悲劇。「蟲」は、これまた女を愛しすぎてしまった男の悲劇。でも、結局、愛しすぎるっていうことは、みんな本当に愛しているのは自分なんでしょう。彼らは、それに最後まで気づかない、それが悲劇であり喜劇かもしれません。(いや、こう醒めてるのもね、つまらんとは思うけど、私は、相手を傷つけたらそれは愛じゃないと思ってるので)
 オムニバスだが全体として1本の長編にも…らしいですが、うーん?どうだろ。全作品に浅野忠信が出てるっていうのと、どの作品も乱歩作品の中でも特にアブナイっていうのと、「芋虫」で出てくる地震が「蟲」にも繋がってるのかな?その程度かな?全体に強烈とは言えますが、長編かどうかは…

竹内スグル「火星の運河」(浅野忠信ほか)
 これだけは原作忘れちまってました。原作をムチャクチャ拡大解釈というか自己流解釈したらしいです。撮影に使われている平原はヒースの野原っぽいのですが、撮影地はアイスランド。まぁ、これはこれで。

実相寺昭雄「鏡地獄」(成宮寛貴浅野忠信ほか)
 流石実相寺監督です。今回の4本の中で唯一”乱歩もの”以上の、「乱歩映画」と言えるもの。「乱歩映画」ってのはこういうもんだ、のお手本みたい。これだけは、もう一回見てもいいですね。好きです。
 パンフレットで映画評論家の方も乱歩映画のイチオシにしているのが前作「D坂の殺人事件」でしたが、私にとってもこの「D坂」は、私が見た原作つきの作品の中では今までで一番、見てよかった、と思う作品。これを見ていた期待に違わず、今回も「演出」とはまさにこういうものだ、です。余計な付け足しもなく、使うべきものだけを無駄なく使いこなす完璧な構築。実に見事に、乱歩のエッセンスと映像美、映像構築の腕が融合しています。トリッキーという評価もあるようですが、むしろ乱歩ということで力みすぎ解釈しすぎの作品が多い中ではごくごく正統派にさえ思えます。(是非、この「D坂」もご覧の上、お楽しみ下さい)
 この意見には賛否両論あるかもしれませんが、やはり「時代精神」というもの、これを外すとなぁ…他の3作は…。一応この「鏡地獄」も、時代は執筆当時とは指定していませんが(「D坂」は執筆当時の設定)、それらしい雰囲気を壊さずやってます。成宮君も違和感なくはまってました。
 舞台は鎌倉。自分を愛しすぎたのが鏡職人(成宮寛貴)、という、自然なのか不自然なのかこれまた難しいお話です。
 タイトル通り、流石に原作通りのあの鏡はなかなか登場しませんが、どの場面でもやったら鏡あります。そんなに…狙ったほどの効果は、私にはなかったですが(^^;)
 殺人方法、これ、女性にはすごく残酷ですね。鏡があったら、やっぱりつい自分の顔を見ちゃうじゃないですか。犯人のこれが悪意なのか、あくまで自己愛なのか。(あの話に無理矢理科学的な裏づけをくっつけるのはちと力技ですが、実相寺さんなら許す!)
 あと、この作品を選んだのが監督なのか他の方なのかはわかりませんが、実相寺監督って、鏡好きなのかもしれませんね、って思いました。「D坂」でも、実は最重要アイテムは「鏡」だと思います(あの場面のあの瞬間、私、真田広之という役者を尊敬しましたねー!)。最後に無理矢理説明されちゃう犯人の動機っていうのも(このへんは唯一、オムニバスで時間がないのが勿体なかった)、「D坂」そっくりだし!(笑)これは監督じゃなくて脚本(「D坂」同様薩川さん。エ○ァンゲ○○○の人。エ○ァは興味ないけど)かもしれませんが。嫉妬って、本当に色々あるのね〜。人間って本当に、誤った自己愛(正しい自己愛は自分をも他者をも成長させる―ハビエル・ガラルダ)から逃れられないものなんですねー。(あと、「和綴じの本」も好きでしょ!監督!)
 「D坂」キャストとの再会もよかった(笑)。実相寺ファミリー。吉行由実さんに、寺田農御大…いやこの方々が、イイ(笑)
 主演の成宮君は、乱歩といえば既に「乱歩R」の「暗黒星」の回に出ていらっしゃいましたね。全然他のものは知らないんですが、割と好きです。今回も実は期待してました(笑)この方、声と喋り方が実に可愛いんですねえ。滑舌も悪くはない。ちょっと、今回の役には若いかなというところギリギリで、役の性格は本人にひきつけて少し無邪気目に、だったということにしておきましょう。でも、最も重要な、鏡を作るシーンでも、技術的に難しいところは多分スタンド・インを使ったとしても、それ以外の部分も危なげなかったし、かなり現場で本番に強いタイプとお見受けしました。R-15な演技もナカナカ…(それにしても、自分より10以上年下の子がラブシーンやる時代かぁ…(--;))
 寺島進さんがチョイ役で出てますが、目立つなぁこの人(笑)(よく考えたら、浅野忠信とはコーヒーのCFつながり(笑))
 あと、ふと思ったのですが、今回も女優さんが惜しげもなくお脱ぎ下さるのですが、ピンク映画の大物女優さんとか、そういうシーンの多い方って、皆さん声が可愛いんですね、と痛感(顔はともかく(ゴメンナサイ!))。今回、吉行さんはセリフないですが(「D坂」にてたっぷりどうぞ)、成宮君の義姉役の方、声がめっちゃ可愛い。女性の声の印象って、実は顔より強いかもしれない。ああいう映画ってむしろ声が大事で、声にそそられるってことは本当にあるんだろうなあ、と思いました(顔がそれほどでもない(ゴメンナサイ!!)女性の可愛い声っての、結構クるんです!)。この、声が可愛いゆえの義姉の告白の切なさといい、D坂での女性被害者といい、実相寺作品は、殺されてしまう女性の描き方も色っぽいなあ。
 明智小五郎浅野忠信。今回の小林少年は男性の中村友也君。今回はこっちの方が萌えv
 監督、クラシック音楽の使い方が実に上手いですな。「D坂」で繰り返し、喫茶店のレコードで流れた曲も、今回のソプラノ(「タイス」)も。一曲だけで行くのが全体の統一感にも貢献しているし。ま、趣味の問題ですが。
 あの…最後の鏡…そう、あれも鏡なんですよね。鏡って、不思議。
 オマケ)ワタクシ、成宮君はものすごく好きとか四六時中考えているとかでは決してないのに、先週あたりだったか、この方と鎌倉でデートする夢(!)を見ました。でもその時は、この「鏡地獄」の舞台が鎌倉だなんでことは全く知りませんでした。ミステリーです。

佐藤寿保「芋虫」(浅野忠信松田龍平大森南朋岡元夕紀子他)
 うーん。映像については…面白くなくはないんですけどね。あくまで作り手の解釈ですから。
 でも、これも「時代精神」の作品で、あの時代だからこそ生まれる異様さが一番の作品なんだけど、ここまで時代的・空間的に不明な場所にしちゃうとな…いや、原作が私にこびりつきすぎているのかもしれないけど。監督の佐藤さんは、ピンク映画では有名な方で(詳しくは『図書新聞』2749号にも記事あり)、確かにそれらしい表現は見事とは思いますが、どうだろ、乱歩かなぁ…
 あと、脚本がちょっと空虚。「ごめん、俺、こういう難しいことはわかんないや!」でした(^^;)
 この「芋虫」(四肢を失って、視覚と触覚のみの傷痍軍人)なんてむしろビジュアルだけで充分見せられる、かつ無駄のない文章の作品に、ちょっと脚本が上滑りしてるような気が…
 その割には、ちょっと「虫」の「感覚」に拘りすぎていて意味不明になっている気も…
 それに、無理に「怪人二十面相」「明智小五郎」という枠で囲まなくても(そこを評価する向きもあるけど)…
 この枠の他にも、わかる人には楽しい仕掛けが短い時間に満載、ではあります。菰田(「パノラマ島奇譚」)、平井太郎(乱歩の本名)という役名なんかはわかりやすいし。
 しかし、これ1本としての完成度は高いのですが、オムニバスの1本で、しかもコアが「芋虫」となると、他の全てが詰め込みすぎの感のみ。勿体ない。
 「夫を愛しすぎてしまった女」の悲劇と勝利である、という意味では、松田龍平演じる平井太郎は面白みのある効かせだったかもしれないですが。ここに二十面相という仕掛けは別に…うーん。色々考えたんだなあとは思いますが。
 何か批判ばっかりになっちゃったけど…解釈が私とは全然合わなかった。申し訳ない。
 ただ、平井太郎が「屋根裏の散歩者」としてこの話に出てくるという”窃視症”、彼が繰り返し覗くレンズ、カメラといった”レンズ嗜好”(最後は、明智小五郎も!)=乱歩自身の性質でもある=は、繰り返されて非常に効果がありましたね。
 少女が演じる小林少年は、「D坂」の三輪ひとみ嬢に続き、韓英恵ちゃん。今回はあんまし少年ぽくない小林少年でした。
 あと、ちょいと妙な話になりますが、今回、女優さんがかなり脱ぐんですが、あんましその…胸の形がいい人がいないっちゅうか…(スミマセン!)。
 皆さん本当に細くていらっしゃるんですけど…それだと…胸も、さびし〜くなっちゃうんですよねえ…(ゴメンナサイ!)ある程度身体全体に肉ついてないと…本当に…(いかに下着や服で変わるかってこともワカル…)
 服着てキレイ、っていうのが重視されすぎているなぁ、と痛感。
 ついでにいえば、脂肪がちゃんと蓄えられている方が色も白くなりますし。むっちりと白い、って、大事だと思いますけどねえ。え?自分のデ○を言い訳すんなって?(笑)でも、芸術になるのは、古くはルノワールの豊満な女性たちだし、彫像の女性だって、脂肪と筋肉のバランスがよくて、丸いところは丸く、締まったところは締まっていて美しい姿でしょ?
 で、じゃあ細くてバストが素敵ってのは無理かっていうと、実は「芋虫」に主演の、今回脱いでない緒川たまき嬢がそうなんです。1994年(もうそんな前か!)のデビュー作「ナチュラル・ウーマン」で、嶋村かおり嬢とレズビアンの恋人役を演じておられまして、これがもう、何より、このお二方の、
「手足細いのに大きくて、しかも寝てもなくならない胸」
に目が点でした(そこだけかよ)。あれから11年経ってますが(本当にゴメンナサイ!)今回「脱いでも凄いんです」は多分緒川嬢だったのになぁ。別に、脱いでほしいって意味じゃなくて、みんなもっと太ろうよ!と思うのです。切実に。(ちなみに、緒川嬢、手足が、細いのにすんごく筋肉質だなぁと今回思いました…鍛えてる…)
 (嶋村かおり嬢、もっと、オヤジ週刊誌のグラビア以外にも出ないかなぁ…美人でスタイル抜群なのに…まさか「ナチュラル」の頃は彼女がそっち系に行ってしまって、緒川嬢が清純系知性系でここまでブレイクするとは思いもせなんだ…)

カネコアツシ「蟲」(浅野忠信緒川たまき他)
 原作のエッセンスは生かして、ややコミカルに仕上げた作品。
 舞台女優(これ大事。TVじゃないの!)・木下芙蓉(緒川)の運転手・柾木(浅野)は、彼女を愛するあまり殺して自宅に死体を隠すが、美しい死体もやがて、腐敗と虫によって汚れていく。何とか死体を美しいまま保とうとする柾木の悲喜劇。
 死体をちゃんと防腐処理できる人、ではなく、できないのに殺しちゃったから可笑しい、っていう乱歩のセンスがよく出てました。監督は漫画家さんだそうですが、やや、原作よりは死体の扱いの「モノ感」が強いのはやはりこのご時世だからでしょうか。
 緒川嬢、ハマりますな〜。「お人形さん」が本当によく似合う。実際、手足細くって、顔立ちが繊細で、お人形さんみたいだしねえ。
 腐り始めた死体を、標本屋で買い込んできた薬品や器具、果ては絵具で(!)何とかしようとするシーン、浅野忠信には笑いを堪えるのに必死でした。これは本当に、彼の奇天烈パワーでした(笑)ごめん、微動だにせず見てた両隣のお姉ちゃん!(笑)
 白塗りの死体は、四谷シモンの人形を思い出しました。極彩色のパラダイスな中に絵具を塗りたくられた死体(公式サイト参照)、は、ちょっとフリーダ・カーロの絵みたいでした。
 文字通り「汚れ役」の(監督曰く、絵具塗れで寒がらせてごめんなさい、だそうです)緒川嬢、大変でしたねえ(笑)
 ただ、浅野忠信が二役で演じる芙蓉の恋人っていうのがイマイチよくわからんかったし、二役で当然同じ顔なのに、芙蓉の花を渡しに来た柾木に芙蓉が「どこかでお会いしました?」っていうのも…
 ああ、でも、この、芙蓉の花束が「造花」ってのがコワイ!!(T_T)「永遠」は狂気の中にしかないのか。そんなことないでしょうけど、そう思い込んだら悲劇やね。
 時代は不明になってますが、折角レトロな役がはまることで鳴らす緒川嬢に、どーしてそこで携帯電話かなぁ…些細なことかもしれんけど。ただ、人と関われない柾木が、携帯が鳴るだけでムズムズ、っていうのは面白かったです。これも解釈の問題ですね。
 まぁ…面白くはありました。こういう「蟲」もあるんでしょう。
 重要アイテム:「万札の折鶴」。1つ下さい。(あれって口止め料でもあるんだろうなー…)

 こんなところでしょうか。
 これからも乱歩映画ができるのなら、やっぱり実相寺監督の次回作だったら絶対見ます。是非長編で。何がいいかなぁ〜。前回の「D坂」が「心理試験×D坂の殺人事件」だったので、この人だったらまた短編コラボレーションの長編映画もうまくやってくれそうです。
 原作の短編だと、やっぱり「赤い部屋」「お勢登場」「防空壕」あたりが好きです。
 オマケ。

B00008OJS3ナチュラル・ウーマン
嶋村かおり 佐々木浩久 緒川たまき
ジーダス(JSDSS) 2003-04-25

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