訃報 エド・マクベイン

 全然知らなかった…
 巨匠エド・マクベインが、7月に永眠されてました。
 先月、「87分署」シリーズ邦訳最新刊第54作、『耳を傾けよ!』(原著:2004)が出まして、一昨日届いたところだったのですが、その「あとがき」の最後のページが偶々目に入ってびっくり。
 このシリーズについては、最新刊も含め、もうレビューしている暇がないのですが、著者の逝去はとっても残念なので、哀悼の意のみ。
 78歳ですから決して早くはありませんが、書くものは常にノリノリ、特に87分署シリーズは大人気で、私もずっと読んできました。本当に肉体の衰えというものは全く感じさせなかったので、亡くなられてから、そういえばそんなお年かと意外でした。 前作『歌姫』も原著は2004年ですから(これは珍しくあんまし後味が良くなかったけど…)、本当に最後まで精力的だったと思います。
 「アイソラ」という架空の街(でもどう考えてもNY)を舞台にしたこのシリーズは、正に元祖警察もの。超人的な名探偵はおらず、一応主人公的な存在の刑事スティーヴ・キャレラはいますが、87分署の主な刑事たちが、皆それぞれ私生活を垣間見せつつこき使われ靴を磨り減らす、でも一人一人のキャラクターが立っていて、退屈じゃない、そこそこリアルな「捜査小説」といえばいいでしょうか。毎回ストーリーは複雑だしキャラも少なくないのにわかりやすく、本当に楽しませ驚かせてくれる傑作シリーズでした。
 主人公は出世はしないわ年は取らないわという、元祖サ○エさんシリーズでもありますが(笑)。警官だからこ○亀というところでしょうか。刑事たちは事件をちゃんと解決してるし、主人公の私生活や仲間の刑事の恋模様など、楽しい方面の要素も盛り上がっていくのに、一体年月の経過はどうなっているんだろうと(笑)
 1956年からですか…50作以上、自分自身でも、本当にそんなに読んだかと思いますが、多分知ってからまず一気読み、ここ数年はリアルで追ってました。
 思い返してみると、本当に思い出深いです。第1作からリアルで読んでる、なんて方はもう、哀しくってしょうがないのじゃあないでしょうか。
 特に印象に残っているものは、第3作『麻薬密売人』。以下ネタバレ反転。キャレラが死ぬところを編集者の助言で助かったという曰くつきの作品。あと、87分署に犯人が立てこもっちゃう話とか、主人公的な刑事キャレラの嫁はんがタトゥーを入れる話とか…うーん、いくつか憶えてはいるのですがタイトルとつながらない。
 何より、最新刊は、主人公たちの私生活の部分で、滅茶苦茶気になるところで終ってる(笑)
 このシリーズはもう1作書かれていますので、これが最終作になるようです。ああ、色んな要素が盛り上がったまま終わるなぁ…残念!
 まあでも、はっきりした始まりもなく、第1作でとにかく彼らはそこにいて、どこで終わるという目標も明らかにはされていなかったので、作品発表は終わっても、刑事たちの時間は続いていくのでしょう。(もしかしたら誰かが引き継ぐかもしれないし)
 ある意味、『指輪物語』にせよ何にせよ、「語られている部分はあくまで時間の流れの一部」と思えるものが、「世界」を作れた素晴らしいシリーズということでしょう。

 87分署については、直井明さんが何冊もマクベインに取材した関連書籍を書かれてますので、シリーズがお気に召した方は、是非このサ○エさんシリーズの秘密に迫ってみて下さい(笑)

 エド・マクベインといえば、元教師の経験を生かしてエヴァン・ハンター名義で書いた『暴力教室』(映画化)で一躍人気作家となり…という経歴はミステリファンならご存じでしょう。
 マクベイン名義では他に「ホープ弁護士シリーズ」(13作で完結済。これは、主人公の女にだらしない性格があまり可愛くないのですが)。
 酔いどれ探偵カート・キャノン(これ、先日読んだ都筑作品の解説で内藤陳がパロってたなぁ)もこの方の作品。
 ノン・シリーズでも非常にいい作品があり、『盗聴された情事』面白かったですねえ。しかも最近では、マクベイン名義とハンター名義でそれぞれ書いたものを本の両面から読む形の『キャンディーランド』という面白い試みの作品もあり、これまた良かったですねえ。
 ヒッチコック「鳥」の脚本も書き、87分署シリーズ『キングの身代金』は、黒澤明監督の『天国と地獄』の原作。
 そういえば誰か日本の作家が「江戸幕兵衛」とかってパロってた気もします。
 (作品は主に早川書房から出ています)

 うーん。でかい作家をまた亡くしました。残念です。

 警察ものと言えば、伝説のシリーズ「マルティン・ベック」シリーズも語りたいのだが…多分読み返している時間がないなぁ。

 オマケ。最新刊は、「デフ・マン」と名乗る謎の人殺しとの6度目(!)の対決なのですが、このデフ・マン、アナグラム(文字の綴り替えで1つの単語から別の単語を作る)が好き。
 しかしこのアナグラムって、レジナルド・ヒルもダルジール警視シリーズが最近サイコミステリーに走ってる傾向がある中で、使うの好きなんですよね。クロスワード好きのモース警部シリーズでも、外国のクロスワードは日本のように言葉を思いついて当てはめるのではなくて、綴り替えも含めだ、1つ1つの答えが頓知みたいになってるものらしいのです。
 アルファベットを使う言語って、漢字(表意文字)と違って表音文字なので、この、綴り替え=並べ替えって愛好されてるのかもしれません。