本日読んだ本を思い出そう(またかよ)
久世光彦『飲食男女(おんじきなんにょ)おいしい女たち』(文春文庫)
著者の急逝直後の文庫化。いつもの通り久世ワールド、久世フェティシズム爆発!
「女」「食べ物」にまつわる掌編集。春・夏・秋・冬の四季に分けられている。
エロいのに下品じゃない、乱暴な言い方しちゃえば、永遠のファンタジーなんですが、この官能的なファンタジーがツボ。
澁澤龍彦『滞欧日記』(河出書房)
生涯4回のヨーロッパ旅行の、詳細な日記。毎日ホテルに帰ってから書き上げたんだそうで、既に立派なエッセイになっている。『幻想の肖像』で採り上げられた絵画を実際に見たりしているのも興味深い。
立川談志+立川流一門『談志が死んだ 立川流はだれが継ぐ』(講談社)
まあ…一門がいつものように好き勝手言ってます。
週刊モーニングに『風とマンダラ』という落語界(というか立川流)エッセイ4コマを連載していた前座の「立川志加吾」さん、「二ツ目昇進への意欲が感じられず」破門されてどうなったのかなあと思っていたら、この本の巻末年表によれば、他の方のお弟子さんになり、別の名前で今も活動されているようです。
立川末廣『談志の迷宮志ん朝の闇』(夏目書房)
で、この本によれば、談志が「やる気のない前座を全員クビにした」のだそうです。この一門は、前座から二ツ目への昇進は「噺を50憶え、音曲を身につける」という明確なもの(真打昇進は、「噺を100憶え、独演会で客を呼べる」)で、まあいつまで経っても一向にこの基準に届きそうにないということなんでしょうね。『風マン』にも度々登場していた「立川キウイ」も同時にクビ、同じ新しい師匠の弟子になっています。
また、まだ彼らがいた頃は談志の独演会でまず前座が出ることになっており(現在はいきなり本人が登場)、著者が行った談志の独演会で談志が遅れ、前座がとうとう3席もやるはめになってしまった、というくだり。この、真打でも滅多にない機会にぶち当たったのが「確か立川志加吾という前座」…
ちなみにこの著者、立川流とは無関係です。
いやしかし。某手塚治虫文化賞授賞式で、何故か式の後のパーティに談志師匠がいらしており、その時「お弟子さんの漫画読んでます!」とか声かけんで本当によかった、と…(そのせつも、画伯、止めて下さって有難うございました。このくだりは「風雲児たち長屋」に載せて頂いたレポートでどうぞ)
その前にも談志師匠を目撃したのが築地。どうして2回とも築地?
立川談志『談志受け咄』(三一書房)
師匠の知り合いのお話。ま読みたい人は読んで。
師匠と筒井康隆の共通点を発見。お二人とも、最初のお子さんを、出産時に医療ミスで亡くしている。
今だったら訴えてるんだろうけど、あの当時といったらまだ、ミスにも口を出せる時代じゃなかったのかなぁ…
ダニエル・シルヴァ『イングリッシュ・アサシン』(論創社)
美術修復師ガブリエル・アロンシリーズ。「ホロコースト・シリーズ」第1話。
今回は、ガブリエルが誰かを狙うとかスパイする、という話ではなく、本業の美術修復のために招かれて訪れた家で、依頼人が殺されていた、という発端。殺人容疑をかけられたガブリエルは組織の力で何とか捜査を逃れるも、実はその依頼自体、本業ではなく組織の人間としてのものだった。もう仕事はしたくないガブリエルだが、依頼人が何を彼に話そうとして死んだのかは気にかかる。かくして、ガブリエルは依頼人の娘である天才ヴァイオリニストの護衛と共に、真実に迫る。
戦時中にナチスに略奪された美術品の行方、というと、前にも挙げたアーロン・エルキンズの美術鑑定家クリス・ノーグレンシリーズの『偽りの名画』『一瞬の光』ですが、この問題、本当にまだまだ解明の緒についたばかりです。戦後60年、これから更に50年60年はかかるんじゃないでしょうか。
この『イングリッシュ・アサシン』は、中東問題シリーズに比べるとやや話がわかりやすく助かります。また、ガブリエルともその前身ともいえる殺し屋とも違う、ちょっと義賊的な殺し屋「英国人」が初登場。
本当に毎回ディテールに凝っているし、登場人物は個性的だし、最後はそこそこ読者の正義感も満たしてくれるし、上手い作家です。