澁澤龍彦『夢のある部屋』(河出文庫)

夢のある部屋
 没後に出た新編集のエッセイ集。前半は単行本として既に出ている『夢のある部屋』、後半の「夢のある風景」は単行本未収録のエッセイで、『澁澤龍彦全集』の補遺から集めたもの。鎌倉の歳月記など。また、編集部のチョイスで適宜写真も何枚か入っている。著者のものは2枚。
 もうこの表紙からして、飾っておきたくなる本なのだが、目次の後、扉の前の「著者近影」(と言ってもとっくに亡くなっているわけで、恐らく撮られた当時の「近影」)を目にした瞬間に、
「あちゃ〜………」
となり、この本をどうやって少しでも安く手に入れようかと考え始めてしまった。あれは確か家を出たばかりの半蔵門線の中だった。
 それから帰りの東横線の中でも、読み進んでからも何度も見直した。…
 笑顔の素晴らしい人に悪い人はいない、という思いを更に深くする。
 たとえ、
「だってこの世界はぼくを中心に回っているから、これからもずっとそうだよ。そんなことで怒るのはおかしいよ」
なんて言われてもだ…(澁澤龍子『澁澤龍彦との日々』。恋人時代の夫人との約束をすっぽかして、「だって眠かったから寝ていたの」だそうである)
 許せる。この人ならば許せる。これほどの知性に、高みに、いる人ならば(精神の高みという意味では、同じく下に挙げたエッセイ集『都心ノ病院ニテ幻覚ヲ見タルコト』もそうだ)。
 「この人がいなかったら、日本はどんなに淋しい国になることだろう」と書いたのは三島由紀夫澁澤龍彦『快楽主義の哲学』序文)だが、流石である。
 全集を買えない人(俺だ〜)、見た目も美しい本で、極上のエッセイを持っていたい人は是非。俺もいずれ買う。待ってろ、ドラコニア!