『別冊幻想文学』澁澤龍彦スペシャル(幻想文学会出版局)

t_masamune2006-06-10

 Ⅰシブサワ・クロニクル
 Ⅱドラコニア・ガイドマップ
の2分冊。
 澁澤殿の没後、『みずゑ』1987年冬号「追悼澁澤龍彦」、『ユリイカ』1988.6臨時増刊「総特集澁澤龍彦」に次いで古く、そして未だに充実度、情報量では一番ではないか。
 Ⅰは、写真、年表、未収録原稿(当時)、追悼エッセイ、生前の澁澤殿インタビュー、幻の企画のリスト、といった「追悼エッセイ&記録集」。エッセイのメンバーは、関わりのあった方を網羅。没後に色々な方のエッセイ集などで読んだ追悼文やエッセイの初出のほとんどがこの2冊であることに(先にほとんどのものを単行本で読んでいたので)、今読んで驚く。ここに収録されたものが、多く90年代にそれぞれのエッセイ集に再録され、あるいは全集の月報(あらためてインタビューしたものではあるが)の骨子になっている。インタビューもこれだけまとめて読めるとは。
 Ⅱは、訳詩選、澁澤殿の生前のアンケート、作品評論といった「澁澤ワールド案内」(まさにタイトル通り!)、アンケート「私のシブサワ体験」、そして参考文献リスト、全作品リスト。このリストが凄い。雑誌の特集は勿論、誰がどこに澁澤殿についての文章を書いたか全部わかる。
 このリスト以後だと、『太陽』が2回特集を組み、『別冊文藝読本』、最近の『KAWADE夢ムック 澁澤龍彦』ぐらいか。(勿論、かかわりのあった方の単行本は除く)
 うーん、2冊、持ってたい気はする。一応この後、全集(単行本未収録だったものも全て収録、しかも編年体)といういいものは出ているので澁澤殿の全仕事を把握するのは難しくはないが、リストとしては一番だろう。
 エッセイ執筆者といい、アンケート回答者といい、澁澤殿について書いたことのある方々といい、何と私の読書歴にかぶりまくりなことか(笑)やはり出会うべくしてやっと出会ったのだなあ。以下思い出すままに。
 笠井潔も、やっぱり熱心な読者だったのですね。
 川村湊、『満州鉄道まぼろし旅行』。
 金井美恵子、『噂の娘』(よくわかんなかったけど)。
 大岡昇平といえば中村中也関係。
 奥本大三郎、そう、「フランス」に「昆虫」とくればこの方もいて、最初の会社の頃、この方のイベントの企画案もあった。
 大室幹雄、ファン・フーリック「ディー判事」シリーズの翻訳。
 赤瀬川原平といえば東海林さだおとの「老人力」コンビ。荒俣宏は最近読んだ。
 生田耕作!澁澤殿より先にこの方の訳になる『マダム・エドワルダ』を読んでいた!(当初匿名だった原書を、この生田氏がバタイユの作だと見抜いたのだと、澁澤殿のエッセイにある)。
 田村隆一、詩人、クリスティーの名訳者として有名で、『我が秘密の生涯』(汗)の訳も読んだ(澁澤殿の北鎌倉の家はこの方のご友人の設計)。
 小笠原豊樹、この方はミステリの翻訳でお世話になっていたのだが、澁澤殿の古い友人とは!
 池内紀、この方はドイツ方面の文学者で、モーツァルト関係の著作ではおなじみ、最近ではTVでも人気だが、何と最晩年の澁澤殿に筆談でインタビューとは。
 そして倉橋由美子はもう言うことなし。この方の作品は大好き。まだまだというのにこの方も亡くなられたばかり。
 高橋克彦、これも説明不要。
 多田智満子、何と澁澤殿の同人仲間、澁澤殿に手をつける直前、宇月原作品をきっかけに『ヘリオガバルス または戴冠せるアナーキスト』の訳を読んでいたのだから、宇月原氏から澁澤殿へ逆に辿っていったことになる。
 都筑道夫、これも説明不要、『毒薬の手帖』の書評(読みたいなあ)。
 筒井康隆、同、「澁澤文学私観」、Ⅰには、澁澤殿と並んだ、泉鏡花文学賞受賞後の二次会らしき一枚。中学生の息子さんが澁澤殿の本を熱心に読んでいたとか。
 中田耕治、『異端作家のアラベスク』、『エロス幻論』。
 若桑みどり、『皇后の肖像』、素晴らしかった。
 澁澤殿も、「興味から興味へという点々が、線になる」と仰っている通りで、読んだ物はいつか必ず別の本と繋がって全体で編み目になる。精神のステント。
 以下閑話休題
 この本の編集人が、件の東雅夫(実際の編集担当は別の4人の方)。凄い人なのはよくわかっているが、どうもこの方の最近の響鬼活動を見ていると「件の」とつけたくなってしまう。響鬼本を国書刊行会から出すそうだが、この方のブログのコメントには既にしっかり「俺設定全開の本なら出す必要なし」という突っ込みがあった(笑)私もそう思う。「こうなるはずだった」という思い込みなら何も公衆の面前でやらなくても。というか、あの後半は結局誰も得をしなかった期間だと思うし、その中で結果的に1人「金になる」というのもどうだろう、というのはやっかみだろうか。まともあれ、動機は二次創作女性と一緒ではないか、申し訳ないが。
 この方、とても強く澁澤どの影響を受けているらしい(先のKAWADE夢ムックにも執筆しているし)。「私のシブサワ体験」には、東氏に澁澤本を薦められて読んだら、「(東氏の)ペダントリーのネタはあらかた澁澤の受け売りじゃねえか」と思った、という回答もある(勿論、仲のよい同士なので半分冗談だろうが)。
 ということは…響鬼も(東氏的には)澁澤殿の延長上に来てしまうわけか。そんなことは断じて認めん(笑)(←個人の自由だって(笑))