澁澤龍彦『妖人奇人館』(河出文庫)

妖人奇人館
 地元の図書館になかったので、相互貸借してほしいというつもりでリクエストしたら、今年春に出たばかりの最新版の文庫を買ってくれました。
 文字通り、ヘンな人のオンパレード。この本も、さらりと、読みやすい。
 そう、澁澤殿は、エッセイストというのがやはりいいかなあと思います。確か出口さんも、私が大分前にそう書いたのと同様、日本語の「エッセイスト」の語感が軽いのは気になるそうですが、仕方ないです。もしくは、「読みものを書く人」。いいですね、最近特に、「読みもの」って、いいものだと思います。(ちなみに、ご自身ではインタビューで、「フランス文学評論家」と呼ばれたいと仰ってましたが)
 澁澤殿は、70年代以降に文庫化されたことで、新しい読者を沢山獲得したそうな。これからもこの「ファンの世代交代」は進む一方でしょう。以前挙げた『澁澤龍彦の時代』他でも書かれている通り、時代につれて読み手も変わり、受け取られ方も千変万化する。それでも、面白いことに変わりはない。
 私も、もう21世紀に入ってからの読み手ですが、まず単純に単行本は重いんで(^^;)文庫じゃなかったら読まなかったですねえ。それと、澁澤殿の本って、単行本はとても装丁にも凝っていて、物体としての良さもありましたが、実は1冊1冊文庫にすると分量は薄くなるんですね(勿論内容は面白くてね)。だからむしろ今時に人にこそ手に取りやすい。同時に、その内容についても、昔ほどのタブーはない。「単行本世代」(と、初期からの読者である澁澤殿関係者はいう)からすると意外かもしれないけど、むしろとても「文庫向き」の書き手でもあったってことになりますね。ずっと読んできて、文庫でもそれなりに統一感を出した河出文庫のデザインや、ちゃんと選ばれた表紙絵などを見るとあらためてそう思います。(この、敢えて澁澤殿を文庫化するという企画を通した河出書房新社もすごいが、彼の売り上げに救われたことも、担当編集者も認めている(笑))
 「全集が欲しい」と初めて思った作家ですが、よほど気に入ったものだけ文庫で買っていこうかなあ。
 さて、この最新版の解説が件の(まただよ)東雅夫氏。この方も大変澁澤殿に影響を受けているそうですが、東氏は1970年に初めて書店で澁澤本と出会い、
「六〇年代の十年間に著者が紡ぎあげた初期文業のほぼすべてを、わずかひと月足らずのあいだに、改造人間の手術台に括りつけられた本郷猛(仮面ライダー1号)よろしく、幼稚な頭脳に集中投与されたのである。どこまで理解できていたかは甚だ怪しいものだが、その刷り込みは絶大だった。」
とのこと。まあこの改造人間云々の例えは無視することにして(?)、でも、結構この澁澤体験って、集中的だった人多いのかもしれません。内容についていけるかっていう問題はありますが、続く人は続くでしょう〜。文章も平易ですしね(だから中学生の読者もいて、中には本気で魔術を教えてくれと電話をしてくる人もいる、と澁澤殿は対談でボヤいてましたが)。
 私の場合は、もう澁澤殿の死後ですから、その書いたものを全部、このひと月ほどで読んでますね。本当は発表順に読んでいったらもっと面白かったかなとも思いますが(うちの区の図書館、全集がない!!)。もうこの年なので「刷り込み」とはいきませんが、それでよかったかも。あ〜年とってよかったな、と唯一思う時は、いい本に出会った時ぐらいですが。
 この東氏の解説の最後の方に、宇月原晴明安徳天皇漂海記』が『高丘親王航海記』へのオマージュであることも書いてあります。この東氏、宇月原さん大プッシュ中みたい。でも、前に挙げた『KAWADE夢ムック』の、氏が担当した「ドラコニアフターマス」の章で、高橋克彦さんを外しているのは片手落ちかな(そういえば、『総門谷R』では高丘親王も重要な役で出てきますが、これも『高丘親王〜』は絶対頭にあるはず)。あと誰か、「この人もだろ」と思った人いたんだけど、誰だっけ…
 あ、これは他の区の図書館から届いた『毒薬の手帖』(河出文庫。何でうちの区にないんだろ?)も読みましたが、流石にこれは「うー…」でした。だって(当たり前だけど)えんえんと人を毒で殺す話なんだも〜ん(←サドは結構平気なのに何故?)。『黒魔術の手帖』はまだましだったんだけど。