87分署フォーエバー

澁澤龍彦『ホモ・エロティクス』(現代思潮社

 エロティシズムに関するエッセイ、他はほとんどが演劇パンフレット、単行本の解説などの短文。とりあえず、読んだ、というところ。流石にこのところの一気読みは疲れるのと、20冊ぐらい読んでくれば、既読のものにちょくちょくぶつかるのも仕方ない。
 三島論を書いたマルグリット・ユルスナール女史って、どっかで聞いた名前だと思ったら既に読んだことがあった。しかも、この本で丁度書評だったか解説だかだった、多田智満子訳『ハドリアヌス帝の回想memoires d'Hadrian(1958)』(白水社)。この、読んだということを後で思い出すっていうの、やだなあ。

澁澤龍彦三島由紀夫おぼえがき』(新潮文庫

 周囲の人々や本人のエッセイ、澁澤殿をモデルにした三島作品などで既に大体のところは掴んでいた。この『おぼえがき』は三島関連の論考やエッセイをまとめたものだが、冒頭の3編は既に他の本で読んでいた。あとがきにもあるように、この本では年代順に追うことができるのがいい。
 とにもかくにも、澁澤殿から見た三島殿は、これらのエッセイに尽きるので、どうのこうのというより、これを読んでそのまま受け取ればいいのではないかと思う。自分が思っていないことは絶対に書かない人だから。

エド・マクベイン山本博訳『最後の旋律』(早川ポケミス

 87分署シリーズ最終作(第56作。中篇の55作は未訳)。といっても、作者が亡くなってしまい、遺作となったもの。元々、どうやったら終わるというわけでもないシリーズなので、まあちゃんと終わらせるつもりもないのかなと思っていたら、一応、死後に最終作として出すものの構想はあったそうである。だが果たせなかった。
 ああ、本当にこれで最後なのかあ…
 昨年の前作『耳を傾けよ!』のあとがきで、同年夏にマクベインが亡くなったと知り、ショックを受け、とにかく次作つまり今作を待ってはいたものの…
 56冊も読んだら(勿論他のシリーズやノン・シリーズも)、そりゃ愛着湧きますって。なんたって、警察小説版「サザエさん」か「渡鬼」か「ER」かですよ。キャラとずーっと付き合ってきて、事件もさることながら、彼らの恋愛模様、家族模様など、ずーっと見てきたんだもの。
 この10作ほどは、特に、彼らのプライヴェートな部分こそ読者の主要な楽しみとなっていた感もある。勿論永遠の「未完」なので作者の予定は何とも言えないが、この最終巻ではあっと驚く決断あり、新たな予感あり。
 彼らはきっとこれからも、パラレルワールドで生きている人間なのだろう。
最後の旋律―87分署シリーズ

『KAWADE夢ムック 古今亭志ん生 落語の神様』(河出書房新社

 『なめくじ艦隊』『びんぼう自慢』は勿論、志ん生と名のつく本は速記本、評論、お弟子さんのエッセイ、全部読んだので、この本の執筆者も出てくるお弟子さんもとっくにおなじみ。ただ全て単行本未収録のエッセイや対談。語り下ろしは談志師匠。
 個人的プッシュは馬生師匠が結構出ていること。芸を外れたところで、長女としてはどうしても、苦労の真っ只中に生まれて苦労しぬいた長男に肩入れしちゃうのよね。このへんの、特に父・志ん生満州に行ってしまっている間のことについては、都筑道夫『推理作家ができるまで』にも詳しい。
 あと勿論、志ん生自身の語りも面白いし、何たって川柳。これは絶品。
  柄の取れた包丁を持つ古女房
  豆腐屋の持つ包丁はこわくない
  干物ではさんまはあじにかなわない
  口づけは七分できたと同じこと
 その他その他、本当にこの人の川柳は、絶妙のトボけ方の中にもペーソスがあるし、観察眼と切り取り方に感服しますね。
 しかしまあ…河出、この本に関しては、おいしいところを持っていったとしか言えないね(笑)落語関係の本にも志ん生にも縁がないのに、ムックの力で一気に未収録アンソロジーですか(笑)権利というわけじゃないが、先日挙げた『澁澤龍彦 ユートピア再び』なんてのは正に河出がやるべきものだけど、志ん生はねえ…(笑)
古今亭志ん生

その他の記録

 ジャン・ジュネ 澁澤龍彦訳『ブレストの乱暴者』(河出文庫
  訳文が素晴らしい。
  ブレストの乱暴者
 藤子・F・不二雄ドラえもんプラス』1〜3(小学館
  これまで未収録だった理由がわかるものもわからないものも。
  かすかに憶えているものも。
  やっぱりF先生のペンになるドラちゃんはかわいい。
  5巻まであるのね。4、5巻を早く買って、図書館!
 ドラえもん プラス (1)