『黒い塔』『シーザーの埋葬』など

 昨日の続きの『黒い塔』。うーん、暗い(笑)でも私は、ブログにも書いたように、P・D・ジェイムズ作品が長いから退屈とは思わない。ダルグリッシュ警視が大好きなので、彼の心理描写がどんなに詳細でも楽しい。非常に高い文学性。しかしこの作品でも、警視、タフだねえ〜。
 レックス・スタウト、大村美根子訳『シーザーの埋葬』(光文社文庫)。ネロ・ウルフ&アーチー・グッドウィンもの、と、書きたいぐらい、ホームズ&ワトスンに次ぐ素晴らしい探偵コンビであり、いつも痛快だ。重厚で剛のウルフに、軽妙で柔のアーチー。ウルフの痛烈な頑固さが小気味よく、それに劣らぬアーチーの慇懃無礼すれすれの知的な舌鋒。もう、この2人のシリーズには痛快の一言しかない。ちなみに、この作品は、外出嫌いのウルフが珍しくニューヨークの外に出る話。彼がそのために探偵として稼いでいると言っても過言ではない蘭の品評会のため。
 「ホームズの私生児では」と言われることもあるこのウルフだが、食べることについては父?と正反対のことをこの作品で言っている。ホームズは、「ものを食べると胃に血が集まって脳に行かないから」と、長い間何も食べずに考える。だがウルフは、「長い間食事をしないと、血が薄まって脳に栄養が回らない」と言う。どっちもどっちだ。確かに食べすぎはよくないが、ウルフは大食漢かつ美食家(そういえば、「グルメ探偵ネロ・ウルフ」としてケーブルTVでもやってますが、これがオリジナルの邦題ならどうにかならんもんか)、しかもビール好き。そりゃ太るわ。
 このウルフシリーズ、かなり作品数があるのに、未だに全然邦訳が追いついていない。早川ミステリ文庫、ポケミス光文社文庫などから出ていて、近年の新訳はポケミスから。また、今年初めて邦訳された、ウルフ物より先に書かれた女探偵もの『手袋の中の手』も、以前この日記に書いた通り大変意義深い、女探偵ものの元祖。
 シーザーの埋葬 新装版