岡谷公二『アンリ・ルソー 楽園の謎』(平凡社ライブラリー)

 アンリ・ルソー 楽園の謎
 会津からの帰路でこれを読んでいました。結構昔の本ですが、世田谷美術館での展示に合わせてか、この10月に再刊。(もしかしたら美術館でも売ってたのかも)
 昨日はやっと、録画しておいた「迷宮美術館」のルソーの回を見ました(ハイビジョンから地上波にお下がりしてくる日をすっかり忘れてて、TVつけたらやってたんで、最初の数分は録り逃しましたが…)。
 完全に、「ルソーはいい人」物語でした(笑)
 で、この番組の最後のテロップに、資料提供だか協力だかで著者の岡谷さんのお名前もあったのですが…
 この本を読んだ人には、「いい人ルソー」なんて爆笑モンでしょうなあ(笑)
 まあ、これこれこういう趣旨で番組を作りますと言うから快く協力してみたら、説明とは全く違う番組になってた!なんて、よくあることなんでしょうなあ。岡谷さんも実際この番組を見てどう思われたでしょうか…
 何故なら、この本に書かれている、実際のルソーときたら、ひどい男です。
 しがない下級官吏でとんでもないおバカな上、女にはだらしない。
 まずは若き日に不正をやってあやうく監獄行きになるところを逃れる。上司の娘に恋して当然身分違いで叶わず。
 6つ年下の可愛いクレマンスと結婚したはいいが、番組では生涯熱愛していたとされる彼女の生前から、モデルを引っ張り込んで半同棲。当然、娘は父と義絶状態になり、その結婚式にもルソーは参列しなかった。
 クレマンスの死後も次々と、よく言えば純粋、普通に考えれば愚かな恋を繰り返し(番組では、この間の、叶わなかった恋のエピソードが超美談になってました)、何とか、2度目の妻ジョセフィーヌと再婚。しかし彼女とも死別すると、晩年には年甲斐もない恋をしてはねつけられ、それがもとで死ぬ。
 おまけに、銀行詐欺に(当人は全く気づいていなかったとはいえ)加担してしまい、若い頃の罪がばれず執行猶予はついたものの、ばれていたら完全にブタ箱行き。
 誰ですかー、ルソーがいい人とか言うのはー。(笑)
 愚かなのか愚かなふりをした大悪人なのか、首をひねりますね。測りがたい男、考えようによっちゃあ物凄く不気味な男です。(そういえば、世田谷美術館の展示にでも、ルソー自身は自分を天才だと思いこんでいたとあった気が。)
 とにかく、絵を描くことが大好きだったってのはよくわかりましたよ…。絵を褒めてあげるとすれば、やっぱり「愚直」の一言に尽きるし。
 この本の、ルソーの絵画についての論考は、とても勉強になりました。この本を読んでルソーを見ると、彼の余りにも特異な画風の源がよりよくわかります。手元にある画集の解説文と比べてみようとも思います。
 ちなみに、番組は実際に世田谷美術館で、絵の前で収録されたもの。クイズコーナーでは入口ロビーにセットを作って撮影しています。休館日にでしょうが、偶々通りかかって覗けた人はラッキー!