先週末から今日あたり

 先週の金曜から布団の中で山口瞳『禁酒禁煙』(中公文庫)。別に禁酒禁煙しようという本ではなくて、それまでの単行本から漏れたエッセイを集めた感じ(表題作は、後に別の最近出たものにも入っている)。この人のエッセイは好きだ。私と考えが同じだから。まあ人間エッセイを読む時なんてそんなもんだろうと思う。
 続いて同じく山口瞳『行きつけの店』(新潮文庫)。タイトル通り、行きつけの店とそのお気に入りメニューについてのエッセイで、店名とメニューが各回のタイトルになっている。
 山口さんの父方の出は佐賀だが、両親は横須賀の出で菩提寺浦賀で、横浜も馴染み深い土地だそうだ。この点で私も横浜界隈の描写は懐かしく読んだ。横浜ベイスターズファンで、学生時代の2、3年は熱心に球場に通っていた関係上、山口さんの言う横浜、つまり山手や伊勢佐木町や関内や馬車道といったあたりもよく歩き回った。ついこのGWにも馬車道を歩いたばかりである。山口さんと違ってホテル・ニューグランドを使えるような身分ではないのが残念だが、その目の前の船着場へは、「シーバス」という小さなフェリーでよく乗り付けていた(横浜駅のそごうの裏の船着場からそこまで、15分ぐらい)。考えてみれば、よくあのあたりに行きはしたが、「行きつけ」になるほどの店はない。強いて挙げれば、あの当時「行きつけ」だったのは、関内の駅の北側にあるマクドナルドか(笑)。今でもそうかは知らないが、このマックはベースボール・カフェ風に、店内に横浜の選手の写真が飾られていたり、球場用のセットメニューがあった(高いから買わなかったけど)。
 話がずれた。山口さんのお気に入りの店はどれも、美味いのは勿論、そこの板前さんや女将のお人柄がいいというのがわかる。でもこういうのも逆に、1度行って気に入って、「行きつけ」になって更に気に入るというのがあると思う。確かに、私が気に入っている「まつや」と、同じ蕎麦屋で浅草・並木の「藪」、上野広小路の「藪」は、行くたびに、店員である割烹着のおばちゃん、お姉ちゃんの差配が見事で好きだ。とくに「まつや」なんて、いつもあれだけ混み合っている店をよくもまあきちんと捌いて把握していられるものだと思う。逆に店員がしっかりしていないと目も当てられないことになるだろうが、そうではないので、いつ行っても混んでいるとわかっていても安心して寄ることができる。混んでいるのでこちらもいつも釣り銭のないように心がけてしまったりもするが…(タクシーなどでも釣り銭がないよう用意していくのは、池波正太郎によれば江戸っ子のたしなみだそうである)
 誰か私を素敵なお店に誘ってくれて、そこが気に入って行きつけになるなんてことはないかしら…(その根性がいかん!)
 私にとっての唯一の行きつけは神田の蕎麦屋「まつや」だが、ここも最初は先輩に連れて来て頂いた。同じ先輩や大学の先生にいつもご馳走してもらっていた大森の焼き鳥屋は、何年か前に相方と再訪したら潰れていた(この店も、先生が、主人夫婦をとても気に入っていたのだが…)。
 そうそう。これも同じ先輩に連れて行ってもらって、1回しか行ったことがないのだが、また行ってみたいと思っているのが関内は伊勢佐木町の「太田縄のれん」。牛鍋屋さん。すき焼きではない。薄く小さい金属の皿のような鍋で、牛肉を味噌焼きにして食べる(これはTVでしか見たことがないが、丁度「みの家」のさくら鍋のようなもの)。この、残った味噌でごはんを食べるのがまた美味い。コースだったので、最初に牛刺しが出てくるのだが、細く切ったニンニクを巻いて食べる、これも絶品。よく、いいトロのことを肉のようだと言うが、この牛刺しはやっぱり美味い肉であって、魚より肉の生が実は美味しいんではないかと思った一品。
 あと是非行きつけにしたいのは、関内の有名なトンカツ屋「勝烈庵」。これは、一緒に球場に通っていた友人(横浜在住)のご両親に連れて来て頂いた。トンカツに赤だしがベストマッチ。ここのすぐ傍の「馬車道十番館」の別館(本館は今年のGWに初めて行った)と、日本大通りにある北欧風オープンサンドのお店「スカンディア」に連れて行ってくれたのもこの友人。(ちなみにこの「スカンディア」の前は、仲間ユッキーとオダギリが主演したドラマ「顔」の第1話か第2話のラストに使われていた。また、出窓を店内から見た写真が、島田荘司『最後のディナー』か、『セント・ニコラウスの、ダイヤモンドの靴』の最後の方に載っていた。そういえば馬車道十番館は島田作品ではお馴染みの店である。)
 また行きたいという店はいくつもある。しかしもしかしたら、そのどれかは「行きつけ」にしてしまったらつまらないかもしれないという危惧もある。いずれはまた行って考えてみたい。