出た!出た!出た!!!〜皇帝ティートの慈悲(多分この記事は後日ブログに移す)
モーツァルト:歌劇《皇帝ティートの慈悲》
ああ、もう、見出しの文字からして3倍ぐらいの大きさにしたいよ!!
出た!出た!出たよ!
「皇帝ティートの慈悲」が!!
このヴァージョンを追い続けること10年。
正に、苦節ってやつである。
ふと気づいてたった今Amazonで検索したら、あった…。
しかも去年の8月に出てた…。
いかに私が諦めかけていたかがわかるであろう…
クラシックファンというよりモーツァルト偏愛者、オペラファンというよりこのオペラだけを偏愛しCDや映像を集めてきたという、非常に狭量すぎる人間が、史上最高絶対唯一の「ティート」と信じて追い続けてきたのがこのヴァージョン。
追い続けてきた、というのは、「DVD化」を信じて待ち続け、その間にあらゆるメディアに手を出したってことね。
ジェイムズ・レヴァイン指揮、ウィーン・フィル。
と、指揮とオケはまあいいとして(指揮者も好きだけどね)。
タイトルロール=ローマ皇帝ティト(ティトゥス・ヴェスパシアヌス)にエリック・タピー、親友にして、恋のもつれから彼の暗殺計画に加わって苦悩するセストに、稀代のメゾソプラノ、タティアナ・トロヤノス。
あー、所謂メジャー系クラシックファンなら名前も知らんであろう…
そうでなくたって、一時代前だって言われてしまうであろう…
(このオペラに限らず、俺が好きなのはベームなんだよ!F=ディースカウなんだよ!シフなんだよ!ギーゼキングなんだよ!正統ドイツなんだよ!今時の人たちじゃないんだよ!うっうっうっ…)
でも…でも…
特に、トロヤノスがたまらんのよ。大ファンなのよこの人の。(偶然買ったCDで初めてこの方の歌を聴いた翌週に亡くなっていたというのには驚いた…)
クラシックファンにも余り知られてはいないし、歌手紹介の本でも私が探した限りでは載っているのは1冊しかないけど、妖艶かつ男役の似合うメゾ・ソプラノ。それが、正に水を得た魚というのがピッタリなのがこのオペラで演じたセストなのである。
ここでちょっと説明しておくと、少なくともモーツァルトの時代ぐらいまでの、主要な役はカストラート(男性変声歌手)だった。それを女性が演じる場合もあった(シーザーやネロやクセルクセスも女性が演じていたのだ!最近では余計な改変をして男性に歌わせることもあるが…)。現在ではカストラートの大役は全てメゾが歌う。オペラではこういう役のことを「ズボン役」と言う。トロヤノス嬢はこのズボン役の名花だったのだ。
ギリシャ系アメリカ人で、非常に横顔が特徴的な美人。メゾであるからソプラノのほぼ専売特許といえる所謂「ヒロイン」は演れず、役柄は限られるが、ズボン役をやらせたら天下一品。中性的でとてもかっちょいいのだ。この「ティート」、「ナクソス島のアリアドネ」、「ばらの騎士」など。特にセストでは鳴らしたらしい。
(気になって調べてみたところ、本当にレズビアンだったらしいというからシャレにならんオチなのだが…)
…それはまあいいとして。
この「ティート」では、彼女が主役と言ってもいい。ハマリ役としか言いようがない。
このヴァージョンは舞台の録画ではなく、「オペラ映画」で、実際のローマの遺跡でのロケと、スタジオ撮影が上手く溶け合っていて区別がつかないほど。何と言っても演出がJ=P・ポネルなのである(同じく映画化されているこの人の「フィガロの結婚」最高ですな)。
このレヴァイン指揮のウィーン・フィル、ポネル演出という組み合わせは、実はこの映画の製作の前年かちょっと前の年に、ザルツブルク音楽祭で実現したもの。この時がレヴァインのザルツブルク初登場。で、この時のメンツの、ティート役のヴェルナー・ホルヴェーグだけがタピーに入れ替わったキャストで、映画が作られたのである。
歌手陣の充実(で、一番弱いのがタピーなんだが(笑))、映像の美しさ、演出の秀逸さ…最高のティートである。
が。
これが長らく、入手超困難だったのだ。
作品自体が、モーツァルトオペラの中ではマイナー。カビの生えたわけのわからんくさい時代劇、やっつけ仕事で音楽的にも大したことない、というのが定説。
だが、モーツァルト以前にも何十回も作曲された脚本であり(祝典オペラなので、皇帝即位などのたびに作られた)ながら、現在でも唯一上演されるのがモーツァルト版。
しかも、作曲されてから100年間は、世界で最も沢山上演されたオペラだったのだ。
その音楽も最近では再評価されている。フン、私に言わせれば今頃である。やっつけ仕事、というのは、「魔笛」を作曲している時に、新皇帝レーオポルト2世のボヘミア王としての戴冠式のために作ってくれ、と割り込んできた依頼だからで(サリエリが断ったらしい)、弟子ジュスマイヤーが多くを手がけ、特にレチタチーヴォ・セッコの部分はほとんどが彼の手になると言われているからだ。ところが、聴いてみると、むしろ、時間がなかったからこそ、モーツァルトのお決まりのフレーズの連続、正に「モーツァルト演歌」とも言うべき内容になっており、とにかくモーツァルトの曲が好きだ、という人が聴いて損をするはずのないナンバーばかりなのである。聴かず嫌いなんて何と勿体無いことか。
私は大学院生の頃、最初にこれを大学の映像資料室で、LD(時代を感じる…)で見た。
そして、その当時ビデオは絶版になっており、販売元に問い合わせた所、「もうビデオが出る予定はない」というので、泣く泣く、ハードを持ってもいないLDで買って、LDとCDのコンパチを持っている先輩に頼んでビデオにダビングしてもらった。それこそ磨り減るまで観た。
ところが、その後1年も経たずに、何とビデオが復刻。とはいえこれも数量限定なので即ゲット。貴重品なのでこのビデオは観ていない。
結婚してHDDビデオを買ったので、ビデオソフトをハードに移してDVDに焼こうと思ったのだが、当然コピーガードがかかっていて駄目。仕方なく、磨り減ったビデオテープでDVDを作った。
そして、それから4年経った今日…
遂に、幻の超傑作が、本当に、本物のDVDで手に入る。
ええ。たった今注文しましたよ。
こんな時に値段なんか気にしてるわけないですよ。ええ。(クラシックって足元見てるのは確かだけどね)
この苦難の間、勿論、滅多に上演されない生の舞台にも出かけましたよ。芸大の定期公演と、東京二期会。
キャストに話を戻すと、セストの親友・アンニオを演じるアン・ハウエルズもハマってます。別バージョン(コヴェント・ガーデンのライブCD=輸入版のみあり)でもアンニオをやってる人なので、この人も「アンニオ役者」ってとこかな(「ウリッセの帰還」ではアテナ役だったかな。この方も男っぽい役が多いです)。
DVDのジャケットは、何故かセストではなくこの人のアンニオ…。
ティートをホルヴェーグ版で聴きたい人は、このコヴェント・ガーデン版でどうぞ。「25秒間ノンブレス」という驚異的な歌唱が聴けます。
清純な女性、セストの妹でアンニオの婚約者・セルヴィーリアを演じたキャサリン・マルフィターノは、その後、スケスケ衣装のサロメになってしまいました(笑)
ああそういえば、二期会オペラの「皇帝ティートの慈悲」、レビューを書こうと思ってなんと1年半そのまま。そう、去年の4月に観に行ったんである(演出が賛否両論。私は「否」である!)。
トロヤノスに話を戻すと、メゾ・ソプラノというのは役が両極端で、男役か悪女・猛女なんである。悪女の方は、有名なところではカルメン。これもトロヤノスはショルティ指揮のでCD持ってます。あと、彼女だと、輸入版ビデオで観たのが、「トロイ人たち」のカルタゴ女王ディドと、「タンホイザー」のヴェヌス。彼女じゃないけど、「サムソンとデリラ」のデリラもメゾだわね。この両極端さも面白い。
オペラってのは、こーゆーマニアックな楽しみ方も…ってか私は初めっからマニアックな方面に行っちゃったのよね。この「ティート」のせいで(笑)。ティート追っかけ、トロヤノス追っかけって、今時のクラシックファン界にそうそうはいないだろうなあ…ちょっとむなしい(笑)
そうそう、二期会「テイート」のレビューで、一番書きたいのは、セスト役が素晴らしかったってこと。名前を今失念してしまったのですが、いずれ言及したいと思います。本当に素晴らしかった。
日本のメゾ歌手の方、ズボン役って結構狙い目かもしれませんよ。
お勧めのCDは、カール・ベーム指揮、ティートがペーター・シュライヤー、セストがテレサ・ベルガンサのヴァージョン
モーツァルト:歌劇「皇帝ティートの慈悲」@ベーム/ドレスデン国立o. ライプツィヒ放送cho. ヴァラディ(S)シュライアー(T)他
ですが、これも日本版は絶版。グラモフォン。大型店で輸入版を探してみて下さい。
これは、全部古楽器演奏だったかな。持ってるけどあんまし聴いてません。
モーツァルト : 歌劇「皇帝ティートの慈悲」全曲