「あるスキャンダルの覚え書き」

あるスキャンダルの覚え書き [DVD]
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 ジュディ・デンチケイト・ブランシェットという、新旧(いや、旧と言っては失礼だが便宜上!)大女優の競演。いや贅沢な1本でした。ってか濃ゆい1本(怖)
 ケイト演じる美人美術教師・シーバは、年の離れた夫と、思春期の娘、ダウン症の息子を抱え、やっと社会復帰したばかり。虚しい私生活からか、15歳の生徒との不倫に陥る。ジュディ演じる歴史の教師は、人とまともな関係を築くことを学ばないまま年をとったオールド・ミス。本題はこの、バーバラの人間性のコワさ。
 バーバラにとって、人を好きになるということは、実は「支配する」ことだし、本人もそれに気づいてはいる。だから、偶然、シーバと生徒との「現場」を目撃した後、「彼女を支配する絶好のチャンスだ」と思い、不倫を誰にも言わないことを餌に、シーバの生活に入り込んでいく。
 バーバラがレズビアンだとは明言されていないし、実際そうではないと思います。いやそうであったなら実に簡単な話。しかし彼女は、人間関係のあり方が小学生並み。ありますね、「あたしと友達なんだから、ナントカちゃんと遊んじゃだめ!」っていうアレ。それがそのまんま年を取って性的なものも絡んでくると、こりゃもう救いようがない。異性に相手にされてないことと、愛を知らないエゴイズムの合体。自分と仲良くなった人はいつも自分を優先してくれなければ駄目。いつでも一緒。相手の全ては自分のもの。でもそれは、正しい、あるいは普通の人間関係、友情、交流ではない。愛でもない。姿の見えるストーカー。
 彼女は、最後はいつも裏切られる、と言う。けれど、そうではなくて、本当に人を愛するとはどういうことかわかっている人間なら、いずれは彼女から離れていくだけのこと。しかし裏切られたと感じた彼女は、シーバに対して、正に手持ちのカードである秘密をばらして、復讐する。
 この映画の感想としては、最後の方の、復讐に走るバーバラが怖いというのが一般的のようだ。でも本当に怖いのは、復讐ではないと思う。シーバは、教え子との不倫は、恋でも何でもなく単にティーンエイジャーのセフレだっただけだということに気づいて目覚め、元の生活に戻る。だがバーバラは、何も学ぶことなく、また新たな相手と同じことを始める。それを暗示するラストが、一番怖いし気色悪い。
 「クイーン」もさることながら、英国の一流女優というのは本当に素晴らしい。ヘレン・ミレンと当たらなければ賞レースでもジュディはいいところまでいったと思う。そういえばアカデミー賞では、ケイトが”助演”女優賞にノミネートされた(前回は日本人もノミネートされて話題になった)のは紋切り型すぎる、という意見もあったが、どっちかが主演でどっちかが助演なら、ケイトが助演にならざるをえないだろう。しかし英国女優はやっぱりすごい。
 結局ありきたりな表現になってしまうのだが、人を愛することを知っている人間と、どうしてもわからない人間の溝は深い。多分、決して分かり合えないだろう。