上野清士『フリーダ・カーロ〜歌い聴いた音楽〜』(新泉社)

フリーダ・カーロ 〜歌い聴いた音楽〜
フリーダ・カーロ 〜歌い聴いた音楽〜上野 清士

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 ※2011年2月25日、ブログ「興味と妄想」とこのはてなダイアリーの合併時に、この記事もコピペしました。この記事には著者の上野様からコメントを頂いておりますので、そのコメントもコピペします。※
 毎度同じ注記になってしまうのだが、このフリーダ・カーロについても書きたいことは沢山ある。最も尊敬する芸術家であり、最も自分に引き付けて考えることの多い女性である。ネタはある。フリーダについて書かれた本で邦訳のあるものは全部読んでいる。勿論映画も見たし、同時期に関連開催だった展覧会も見た(セット券で!)。他にも、フリーダの絵が含まれる展示には何回か出かけたし、彼女の家の建築についての展示(「カーロとリベラの家 ファン・オゴルマンの建築」ワタリウム美術館)にまで出かけてしまった。しかしこれまでもまともに書けたとは言えず、折りに触れ書いてきた。
 フリーダとの出会いは、彼女自身ではなく、李香蘭を主人公とする昔のドラマで、香蘭の最初の結婚相手、イサム・ノグチの若き日の恋人(フリーダにとっては不倫)として、ワンシーンだけ登場していた。それからどうして彼女の絵を見る気になったのかは憶えていない。しかし見て一度で虜になった。
 男女に基本的に違いはないとは思うが、やはり彼女の絵は女性にしかわからない部分がほとんどだと思うし、男性にわかってなど欲しくない領域であるような気もする。
 血の臭い、母性の臭い(彼女はついに母とはならなかったが、最終的には夫を母の愛で包むことになったようだ)、土着性の臭い。これに耐えて彼女の絵を正視するのは、女性に向いたことだと思う。

 さて、今回の本だが、読む前は正直余り期待していなかった。しかし読んでみると、音楽やメキシコの歴史、土壌という観点に絞って、フリーダの特徴がよくまとめられている。フリーダの伝記的な部分は再確認だが(既存の本、例えば決定版とされるヘイデン・エレーラ著の伝記についての批判はあった)、フリーダにまつわる、メキシコを象徴する音楽については詳しくは知らなかったのでとても参考になった。著者の肩書きはジャーナリストであって美術・音楽の研究家ではないが、12年間のグアテマラ滞在という強みを生かした、説得力のある内容になっている。(著者よりお知らせあり、滞在期間は合計13年だそうです。私はどこを見て書いたのでしょうか…。訂正してお詫びします。)
 第1部は「フリーダが歌い聴いた音楽」。元々スペイン語の歌は好きだし、メキシコのああいう感じの激しい歌詞の歌(情念の歌というものだろうか)に興味はあったので、何曲か聴いてみようかなという気にもなった。映画で使われていた音楽や、あの映画は音楽の使い方がとてもよかったことなどを思い出して懐かしくもなった。映画の主題歌「Burn it Blue」は、アカデミー賞主題歌賞を受賞した。
 第2部は「フリーダが生きたメキシコ」。いくつかの芸術関連の媒体に著者が発表してきた、フリーダやスペイン芸術についての文章を集めたもの。フリーダ以外の興味深いアーティスト、私の好きな人も出てきていて、こちらも面白かった。特に、レメディオス・バロ。同時代の女性画家は(例えばレオノーラ・キャリントンとか)、見た目だけで判断する評論家には「シュールレアリスト」とされるが、よくわかっている人たちは、フリーダ同様、そうではないと考えている。私もそう思う。現実を超現実と見える画風で表現したのであって、小難しい芸術性ではなく、心の真実だと思う。何にしても自分の現実を形にして表現できるというのは羨ましい話である。

 フリーダと出会ったばかりの頃、私は人より2年遅れて社会人になったばかりで、知り合ったばかりの、取引先(お客さん)の会社の女性課長と、フリーダの話をした。
 その女性も、フリーダのことを知っている自体が大変に珍しいことだった。今でも、まだまだ知名度が高いとは言えない画家である(女性であり、ラテンアメリカ人だからだ)。ましてやあの当時、同じ話ができるだけで嬉しかった。
 彼女は言った。
 「あなたのように何不自由なく育ってきた人が、フリーダのファンだというのは珍しい。」
 それは自分でもわかっている。しかし私のどういう苦しみが私をフリーダに引き付けるのか、説明は一口では言えないので、その話はそのままにした。
 フリーダの絵というのは、その人なりに流した血を、絵に描かれた血が救ってくれるような気がする。これまた男性には、何であの絵で、と思うところだろうが、女性というものは常に血とは切っても切れないものであるから、仕方ないのである。

 私が一番好きなフリーダの絵は、「私の誕生」と、「希望の木は強い」、そして「生命の花」である。

 このへん、是非聴きたい。勿論今回の本でも紹介されている。

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 映画はこちら。まあそこそこの出来。

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 「Burn it Blue」、凄くいい曲だった。
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映画「フリーダ」オリジナル・サウンドトラックサントラ リベラシオン サルマ・ハエック&ロス・ヴェガ チャベーラ・バルガス リラ・ダウンズ トリオ/マリンベロス リラ・ダウンズ and マリアーチ・フベニール・デ・テカリトラン カエターノ・ヴェローゾ&リラ・ダウンズ ロス・コッホリーテス

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 上野様よりのコメント
 著者です。偶然、見かけました。お褒め戴きありがとうございました。ちょっと訂正しますと、グアテマラ6年、メキシコ7年の滞在でした。今年7月に出した「ラス・カサスへの道」もよろしく。出版社も同じです。
 お返事
 こんにちは。はじめまして。
偶然見つけて頂き有難うございます!
フリーダの本には色々ありますが、少ないとはいえ日本人の書いた本は秀作が多いという印象があります。しかもあちらの滞在経験のある方も何人か含まれていて、幸運なことだと思います。
上野様のこの本も切り口が面白く、人と音楽と土地は切り離せないものだとあらためて思いました。

訂正ですね…私はどこを見て12年と書いたのでしょうか…後ほど訂正しておきます。

フリーダの絵がとても好きで、この記事は久しぶりに彼女に触れるということで私的なことも書いてあり、著者にご覧頂くとなると更に恥ずかしいです(^^;)

結局未だに、フリーダ関連の音楽を聴けていません(お財布が…)。レンタル等あればいいのでしょうが、そういうのもなさそうなジャンルですし。努力します。

新刊のお知らせも有難うございました。読みます。