山本夏彦『誰か「戦前」を知らないか 夏彦迷惑問答』(文春新書)

誰か「戦前」を知らないか―夏彦迷惑問答 (文春新書)
誰か「戦前」を知らないか―夏彦迷惑問答 (文春新書)山本 夏彦

文藝春秋 1999-10
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 こないだ読んだ同著者の『百年分を一時間で』の前にあたる本。
 なるほどこれは、「今の時代に戦前の名残はどこへ行った」という本ではなく、「ああ、正しい『戦前』の姿は語り継がれていないッ(憤怒)」という本なのです。
 この方が名づけた「戦前戦中まっ暗史観」は、私も、間違いだと思いますね。少なくとも2000年(ぐらい)の歴史はある国で、たかだか西洋と出会って100年ちょっと、洋服を着ることが主になって50年程度のことで、その間にあった数年の戦争で、その直前の何が真っ暗になるというのか。
 私が、むしろ今から考えると夢幻のような美しさだと、昭和10年代のことを知ったのは、久世光彦さんの本でしたね。妙な色彩感、時には毒々しいまでに色のある時代。たったあの戦争の間だけがカーキ色だっただけで(この「色」の違いを、田辺聖子さんも美和明宏さんも強調している。逆に言えば、あのたった数年間で日本は日本の歴史も教養も、その「伝え方」を失ったけれども)、人々にはそれぞれの生活が普通にあった。
 何だか、戦前は、昭和の前期は真っ暗だったとかいうのは、中国の歴史書で、前の王朝の最後の皇帝は必ず暴虐の悪者にされるのと同じで、そうでないと現代が肯定できないんでしょうね。しかし私は、歴史は前に進むだけじゃないと思っているし(これ、誰かも同じ文春新書で書いていたな)、何かが発明されたからと言って、それがなければ以後絶対に暮していけないというわけでもないし、むしろ、一歩進むたびにその足元には慎重にならないといけないのは、現代の方がそうだと思いますけどね。