内田康夫『風葬の城』(祥伝社文庫)(リンクは講談社文庫)

風葬の城 (講談社文庫)
風葬の城 (講談社文庫)内田 康夫

講談社 1995-07-06
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 この作品の舞台が会津だということを知って、早速借りてみた――はいいものの、やっぱり会津というのは私にとって「痛い」ものであって、3週間(勿論途中で1回貸出を延長して)もほったらかしてしまいました。
 まず、先に作者あとがきに書いてあることを言えば、この作品は「作品を通して、会津の人々を描き出す」ことを試みたものだそうです。この試みは成功していると思います。作者も、取材を通して会津には思い入れができて、そうなったようです。
 もう1つの試みは、浅見光彦自身の視点がないこと。普段のこのシリーズは、一人称でこそないものの、光彦の視点で進みます。しかしこれは何人もの登場人物の視点で語られていきます。そして―――ある人物の視点、それこそが犯人のものであることは、…誰でも途中でわかりますっ!(^^;)なのでこの話は、ネタバレしないように感想を書いても余り意味はないのですが、ネタバレはしないようにします(笑)
 ほんとにこの、犯人が、会津に対して○○の人間で、それだけでなく人間として最低な野郎で、…あんたはクリスティー作品かー!みたいな(注:クリスティー作品って、「こんなヤツ死ねばいいのに」って奴が最初に殺される…のも人気の秘密?)。いや被害者じゃないけど。でもホントに、会津の人間にとっては、コイツの生まれが○○である上にサイテーな奴って…もう最悪ですね。
 しかもコイツ、途中で、会津の魂を受け継ぐヒロイン(名門女子校の教師)に対して、さんざん会津をこきおろします。私も、怒りは露にしたものの言い足りず、「もっと言ってやればよかった」と思ったヒロインと同じ気持ちになりました。
 私はこの作品を読む前に、『風葬の城』とは、何とこの地に相応しいタイトルかと思いました。私は別に、『(地名)殺人事件』でも構わないのですが、世の中にはそれだけを捉えて批判した評論家がいたそうで、しかし、この作品は『会津殺人事件』にならなかったことで、一層、会津の悲しみ、犯人の悪辣―というよりももう人間として生まれてこなかった方がいいんじゃないかという人間像を見事に表していると思います。 
 私が最初に「風葬の城」という言葉を聴いた時にイメージしたのは、会津で写真で見た、敵の砲弾でズタボロになった、しかしとうとう落城はしなかった天下の名城「会津若松城」の姿そのものでした。いわばあの城が、無残な姿のまま、あの会津盆地の広い広い空の下で「風葬」の姿を曝していたあの頃のこと。(小さな会津若松駅に着いて最初に思ったことは、「空が広いなあ」でした。この作品にも描かれている通り、会津は山間ではなく本当に広い広い盆地にある、空の広い街です。)
 しかし犯人は、長州が会津に与えた、死者の埋葬を許さないという屈辱を与えたことを軽々と、「風葬みたいだ」と言ってのけました。(それ以上にもっと酷いことが城内になだれこんだ長州兵によって行なわれたのですが、このへんについて詳しくは高橋克彦『倫敦暗殺塔』をどうぞ。)
 私は憶えています。阿弥陀寺にあった、後になって懇願の末にやっと会津の死者を埋葬した小さな土饅頭を。あの土地にはあの時、実に色々なものが「風葬」されたのだと思います。命のほかにも。
 風葬とは、何と残酷な言葉か。
 ラスト、納得すべきなのかどうか。確かに日本では、人を2人3人殺しても死刑にはなりません。けれど、裁判を受けるという過程が大事でもあると思うのです。浅見がそう仕向けなかったことで、結局、殺人の動機となった巨悪はうやむやになってしまった―――ように思うのは、間違いでしょうか?あんな犯人に、死ぬという最後のプライドを残す必要はなかったと思う。それは、会津の人々の誇りとは余りにも意味の違うもので、プライドという表現を使って欲しくはなかったような気もする。
 …と書いてますと重いばかりの作品のようですが、勿論、冒頭は会津塗の工房、もちろん飯盛山、大内宿、湖畔など、会津の旅情もたっぷりです。私も、自分が行った所が出てきて楽しかったです。(近藤勇のお墓も出てきますが、ここは場所が奥まってたので行ってません。)
 ラストシーンで、事件を担当した刑事が浅見を連れて行ってくれた、飯盛山の、若松城が一番よく見える場所…会津人しか知らない秘密の高み…あれは、一体何処なのでしょう。
 阿弥陀寺の、「明治戊辰戦後殉難者墓」。いわゆる東軍墓地とは後になっても書けなくて確かこの名前になったらしい。
 会津東軍墓地.jpg
 ↓何か実はこれも買って今日届いた所。画は金田一シリーズも描いたことのある長尾文子さんです。帯によれば、ドラマで演じた辰巳琢郎さんご自身がドラマ化を提案した作品だそうです。うーん。ラストシーンはこの漫画版より原作の方がいいなあ。
 風葬の城 (秋田コミックスサスペリア)
風葬の城 (秋田コミックスサスペリア)*p2*[お知らせ]ほっといてた『長崎殺人事件』感想ちょっとだけ
 http://d.hatena.ne.jp/t_masamune/20080312/p1 
 そういえば昨日、「恋するハニカミ!」を見てたら、H川氏が長崎で写真を撮ってましたね(っていうかだから録画しといたんで、さっき見たんだけど(笑))。グラバー邸きれいでしたね〜。稲佐山もステキでしたね〜。あの景色は素晴らしいですね〜。