「春の雪」

 春の雪
春の雪
 予想よりはよかった。 
 竹内嬢と妻夫木君と聴いて、「えー、こんなイマドキの人で?」と思っていたのだが、映像の力というものなのか実力なのかはわからないものの、結構はまっていた。
 この映画が悪くない(別に、すんごく良くもないけど)のは、結局、おしつけがましくないからだろう。どのみち、文章作品として凄まじいレベルにある三島作品に自分なりのなんとかかんとかを持ち込んでひねってどうので何かを言おうなんてことがおこがましいのだ。出来る限りそのまま、というやり方を選んだのがよかった。
 勿論、何もかもが原作通りではなく、例えば女優が脱いどらん!とか(笑)、はしょった部分で大事な感情の流れが切れてるとか、色々言いようはあるのだが…まこんなもんでしょ、という及第点ではある。
 竹内嬢は、原作の聡子ほどの気高さと意地はないが、適度に…ということで。妻夫木君は、大正初年という時代の中で浮かなかっただけで十分。
 あの山荘のシーンでの、清顕の「どんな罰でも受けるよ」には結構ぐっときた。「受けます」じゃなくて「受けるよ」なとこが。聡子の方が年上なのだが、あの瞬間に初めて清顕が「男になった!」という感じがした。
 良かったのは、本多役の高岡蒼甫だろう。「豊饒の海」4部作なのだから、彼の本多で次の『奔馬』ぐらいまでは見たい気がした。多分続編は作られないだろうけど、彼だけは見たいと思わされる。
 親世代だと、石丸氏の没落貴族感は出てるのだが、榎木孝明氏だと成り上がり感はあんまりない。それにしても榎木氏、妻夫木君と、今の大河では瑛太と、今をときめく若者の父親役が続く。うーん父親役かあー。妻夫木君をぶん殴るシーンはよかったぞー。
 ラストシーンで、清顕の最後のあの台詞だけは言わせておいて、死んだとは明示していないのはどういう意図なのだろうか。この4部作は輪廻転生がテーマなので、死なないと生まれ変わらない(笑)のだが。
 もし作られるとしたら、『奔馬』の勲は藤原君で、というのが個人的希望。(彼だとそのまま『天人五衰』の透もいけるか?これだとミスリードの役にも立つし。それとも透は松田兄弟のどっちかか?)
 春の雪 (新潮文庫―豊饒の海)
春の雪 (新潮文庫―豊饒の海)