劇団との距離

 「四季の会」をやめた。
 この「四季の会」というのは、「劇団四季」のファンクラブのようなもので、会費を払うと会報が届き、先行予約(一般発売より1週間早い)が使えて、S席が1,000円引きになる(ウィークデイ・マチネを除く)、というものである。
 このシステムが、数ヶ月前から、
「4年以上チケットの購入をしていない人は、『ラ・アルプ会員』に移行できる」
ということになった。
 『ラ・アルプ』というのは「四季の会」の会報で、劇団のシンボルマークであり「四」の字にも似た「ハープ」のフランス語読みのこと。
 この、”『ラ・アルプ』会員”というのは、会費が安く、会報の購読だけできて、先行予約も割引もなし、というものである。
 「移行できる」とはあるが、
「会員でもどうせチケットを買う気がないなら、会報購読だけのに移ったら」
という意図が見え、このシステムが会報で知らされた時から、会員の間では不評だったらしい。私も又聞きなので詳しいことは知らない。
 「チケットを買わない奴は会員やめろってことか!」
という怒りも、わからないではない。
 本来、会というのは劇団四季を支える気持のある人の集まりで、その気持の表れが会費であるわけで、それを劇団の方が、会員自身のあり方について―つまり、会員たるもの定期的にチケットを買えと―指示すべきものではないのだろう。
 私は四季が、チケットを劇団が手売りしていた頃から知っている。
 手売り、ということは即ち、チケットを売れなかった劇団員には役がつかないことさえある、劇団として最もプリミティヴなあり方のことである。
 初めてチケットを買った頃だって、まだまだ世間では「劇団四季」なんてものはマイナーで、やっと「オペラ座」を初め、海外の有名ミュージカルの日本版を上演するようになって少しは知られてきた、という程度だ。つまりオリジナルの頃は、申し訳ないが、一部の演劇ファンしか知らなかったのだと思う。
 その初めての観劇と、友人から紹介された営業さんからチケットの案内をもらうようになって少し後、「四季の会」に入った。
 つまり、私が「四季の会」に入った頃は、会員特典というよりは、純粋に、「四季を支えたい」というファンが多かったと思う。
 今からは想像もつかないが。今では、ネット予約はできるわ公式HPはあるわで、本当に、昔のことを知っている人間からすると嘘のような発展ぶりである。
 …何かもうどうでもいいな、と思ったのである。
 醒めた、と言ってもいい。
 とうとう劇団の方が、会員を選ぶようになったのだろうかと。
 勿論、一時期ファンの間で噂になったような、「4年以上購入歴のない会員の強制退会」などということはなかった。しかし、「どうせ買わないんだろ」と劇団の方からお節介をされていい気持ちの会員はいまい。
 加えて、劇団の、「買わない人」への方針転換。
 私も、「それでもいつかは行けるかもしれない」と、その「いつか」のために先行予約の機会を維持すべく会費を払い続けてきた気持を、あっさりと否定されたように思っている。
 私にとって、「四季の会」には、充実した会報があるとはいえ、やはり「先行予約」が鍵だったようだ。ここ3、4年買っていなかったとはいえ、いざ、1週間の先行期間がないとなると困る(前の記事にも書いたが、実質上、営業さんからの案内が早すぎて、その時点ではチケットを申し込めない)。
 かつ、「会報だけでも読んで情報は欲しい」というほどの熱狂的「四季ファン」でもない。認めたくはないが忙しいから、今後観に行けるかどうかも、非常に不透明である。だから情報のためだけに金を払う気はない。
 丁度毎年6月が更新であったこともあり、6月半ば、退会届を提出した。
 決して、年間2,100円という会費は高くない、どころか、あの会報が12回届くのだから安い方だし、2回S席で観れば元が取れてしまう。だから会費の問題ではなかった。
 鋏を入れるために久々に取り出した会員証に刻まれた入会年が、もうかなり昔であったことに驚いた。
 個人的にはそういうことで、もう1つ、劇団をめぐっては嫌な問題もあるらしい。
 転売目的でのチケット大量購入である。
 劇団は、どうも、そのために会員になっている人がいるのではないか、大量にオークションサイトに出回っているチケットが、会員が大量購入したものではないか、という推論を推論でなくしたというか、そういう問題もあって、会員の「振り分け」に踏み切った…という、あくまで聴いたのは噂である。
 確か、会員は「1列あたり20枚まで」買えたと思う。
 私が初めて四季の舞台を観た頃は、若い客などほとんどいなかった。これも前の記事に書いた通りだが、ああ自由に舞台なんか観ていられるのはこういう人たちなんだ、と強く思った。つまり、子育ても一段落したぐらいの、いかにも裕福そうな主婦ばっかりだったのだ。「四季の会」になっている代表の人が、友人の分まで、確かにこりゃ、20席とは言わないが1回に5枚ぐらいは取るだろう、というぐらい、おばちゃんのグループばかりだった。 
 「買わない」会員を差別するより先に、枚数制限すべきなんじゃないか、というファンの声もあったらしい。確かに、20席取れるのなら、そういう目的で買うなという方が無理だ。(私の感覚では、確実に売れるかどうかもわからないのに高いチケットをそれも20枚も買うというのがわからないが、それだけ、今の四季は「確実に」売れるということだろう。人気者の悩みである。)
 『ラ・アルプ』にも、「あやしい席の買い方をする人」(実際はこういう言い回しではなく、要旨)には、制限なり退会なりの処置を取る、とか書いてあったような気がする。例えば、公演期間中の全日程買うとか。
 でも、本当に自分で観たくて毎日!買う人もいるんだそうなのである。だから、ファンを真っ先に疑うな!という怒りの声もあった。
 他の舞台でも、先行などであちこちに手を打って、結果複数当たってしまってチケットが余るということは実際にある。だからチケット交換掲示板などがある。一概に、転売目的を疑って排除していたらチケットなど売れないし、結局は、バランスが悪いだけなのだ。
 悪いのはシステムなのか人間なのか。別に劇団が悪いわけじゃないのはわかっている。しかし、最近の四季が全体に「どうも妙」なことになっているらしい、とは、あくまで噂を耳にするだけだが、そうらしい。
 ただ、このチケット大量購入については、買わない会員は大量購入もしないわけだから、排除してもしょうがない。だから、『ラ・アルプ』会員への移行とは関係がなく、純粋に沢山買っているのと転売目的の区別がつきにくいため、「会員」でいてうっかり沢山チケットも買えない、というファンの怒りはある、ということだ。いずれにせよ、劇団とファンの距離が空きかねない。
 つまりは、とにかくでかくなりすぎたゆえの問題が沢山ある、ということだ。
 ざっと20年以上の付き合いだが、本当に急速に何もかも便利になって、客層も変わって(増えて)…随分変わったなと思うことが多くなった。
 それ以外にも、代表者の、長年功のあった俳優への失礼な発言とか、色々あるようである。(私がずっと好きだった女優さんも辞めてしまった。)
 と、まあ色々あって、ひと区切りつけた。
 わざわざ会報だけの会員になってしがみつかなくても、もし観たくなれば、ネットで情報観て、取れれば取るだろうというだけである。それは私が所詮、四季のオリジナルミュージカルには興味のない(オリジナルで観たいのは「ミュージカル李香蘭」だけだ)、浅いファンだからだろうが。
 どうしようもなく距離が開いてしまったなら、別れるのが一番だ。