10/25 五十嵐貴久『シャーロック・ホームズと賢者の石』(光文社カッパノベルス)

シャーロック・ホームズと賢者の石 (カッパ・ノベルス)
シャーロック・ホームズと賢者の石 (カッパ・ノベルス)五十嵐 貴久

光文社 2007-06
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おすすめ平均 star
starそんなにディープでは無く軽く楽しめる

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 こーれは、楽しかった!
 ボリュームはそんなになく、あっさり読めてしかしニヤリとさせられてばかりという、忙しい身にも嬉しいホームズ・パスティーシュ短編集。
 あらためて申し上げておきますと、ホームズものは「原典」は全て読んだのは勿論、国内外のパスティーシュ及び関連書籍も九分九厘は読んでおります。
 で、今回の『賢者の石』は昨年の6月に出ていたのですが、忙しくてチェックを逃れてました。先日読んだカッパノベルスの巻末広告で知りました。
 あれ?この本読んでなかったっけ?と思ったのですが、それは同じくパスティーシュ・アンソロジーシャーロック・ホームズ 賢者の贈り物』でした。このパスティーシュ・シリーズも出来がいいし、そうそうこの『賢者の贈り物』はこれからの季節にもぴったりです。
 で、この『賢者の石』の方は・・・
 楽しいですね。繰り返しますが。小説作品とか、パスティーシュで一番大事なのは”楽しさ”だと思うのですが、その点で既に合格してますし、ライトな作風かつ4作しか入ってない短編集なので細かいことは言いません。
 全体に、「原典」の謎をこういう風に解釈してみました、というストーリー。
 「彼が死んだ理由―――ライヘンバッハの真実」
 「最強の男―――バリツの真実」
 「賢者の石―――引退後の真実」
 「英国公使館の謎―――半年間の空白の真実」
 となっております。「原典」のファンなら勿論、どれも気になってしょうがない時期ですよね。
 1編1編に思わずニヤリとしてしまうような「オチ」がついていて、楽しいことこの上ないんですね。敢えて例えれば、ちょっと山田風太郎にも通じるような「仕掛け」です。私が一番好きなのは「賢者の石」のそれ。
 ただ、冒頭の1作だけがちょっとテイストが違うので、この話が「本当」だとすると、あとの3編はどうなっちゃうの?っていう謎は残るんですが…

 最後に、日暮雅通さんによるパスティーシュ史紹介「ホームズ・パロディ/パスティーシュの華麗なる世界」が収録されているのですが、私を含めホームズものなら何でも、という人には取り立てて珍しい内容ではありません。それに結局、最後に紹介されている日本のパスティーシュが世界水準だ!ということを言いたい文章だし。
 ここで紹介されている海外のパスティーシュも9割(M.J.トローのレストレイド警部スピンオフものは警部がカッコイイ!)、そして日本のパスティーシュとして紹介されているものは全部読んでおります。確かに、日本のものもどれも世界水準!だと思います。こういうのって、やっぱり日本人の特性なんですかね。
 ちなみに私のお気に入り日本人ホームズパスティーシュをいくつか挙げておくと、やはりトップは山田風太郎「黄色い下宿人」(『日本版ホームズ贋作展覧会』所収)、島田荘司『ホームズと倫敦ミイラ殺人事件』、岩崎正吾『探偵の冬あるいはシャーロック・ホームズの絶望』(これは「探偵の四季」シリーズで、春夏秋冬ある)、そして以前にも挙げた柳広司の『我輩はシャーロック・ホームズである』、芦辺拓編『贋作館事件』(これはホームズ以外の贋作も含まれていて、この中にあった、ホームズが何の説明もなく「二子玉川」で地下鉄に乗っているという話は実家の地元過ぎて大受けした(笑))。こんなところでしょうか。日本のものはどれも好きですけどね。