宮崎玲子『オールカラー 世界台所博物館』(柏書房)

オールカラー 世界台所博物館
オールカラー 世界台所博物館宮崎 玲子

柏書房 2009-02
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 最寄の図書館で見かけて即借り。多分この宮崎先生は、昔夢の島熱帯植物館にイベントの納品をしていた頃、世界の台所を再現するという部分で凄くお世話になった方だと思います。いや違った?著書を参考にしただけだっけお会いしたことはあったっけ?いずれにせよ、間違いなくその時に知ったお名前です。
 写真が一杯あるのと、単なる興味で借りてみたのですが…
 いやこれが面白いっ。
 最初に、人類と火の歴史とか、地球規模で日照時間(当然気温分布にも関係する)の話とかで、目からウロコ!私も世界の色んな台所の話は好きだけれども、スポットスポットで見ていただけで、こういう国はこういう台所なんだ、へえ、ぐらいだったんです。でも色々と歴史的科学的に理路整然と、これはこうだからこの地帯ではこういう形式の台所です、と説明されるといちいち大納得。いやー面白い。
 と、各国の台所の違いの根拠がわかると同時に、日本の台所というのも、世界の中の日本の文化ということでまた新鮮な目で見て面白いなと思います。日本って、冬の平均気温はヨーロッパよりも寒いんですね。初めて知りました。一応「南の国」に属している(北緯40度より北と南に大まかに分けられるのだそうです)んだけれども、北の方では「北の国」の特徴も持っている。元々日本というのは、位置している場所と同時に、南北に長いため、世界にも稀な季節の豊かな国で、大体、スキーとサーフィンを両方やれる国ってそもそもそんなにないですからね(日本以外で可能なのは中国やアメリカなどでっかい国です)。東北に世界有数の豪雪地帯を抱え(気温では世界で最も寒いシベリアに負けるが降雪量となると日本は凄いんだそうです)、一方沖縄にはこれまた世界有数のダイヴィングスポットもある。いい国ですわ本当に。
 台所の違いからは、世界各国の、水、火、関連して暖房の観念の違いが見えます。世界って広いんだなあ。というわけで、いくつか「ひょええええ」のピックアップを。
 ・北の方の国では、哺乳瓶を消毒しない。
 うげえええええええええ。何でも、北欧の母親は、飲み残しのミルクを「ヨーグルトになって消化がよい」と戸棚にしまって、日本人の母親を驚かせたそうです。
 驚いたっつか嫌です。正にあったかい日本との違い。日本の乳児の死因として昔多かった「消化不良」はぶっちゃけ消化には関係なく細菌性胃腸炎だったんだそうです。日本じゃ消毒しなかったら一発なんですよ。(それに、「ヨーグルトになる」って、期限切れの牛乳を「ヨーグルトだ」って食ってたの、『こち亀』の両さんですよ…)
 まあ、うちも結構ルーズで、煮沸はめんどくさいんで電子レンジ消毒用のジッパーつきの袋ってのが売っててそれを使ってたんですが、1枚につき5回までと決まっているのを何十回使ったかわからなくて(笑)。5枚入りパックがまだ3枚余ってるのでそのまんま妹にあげるってぐらい。飲み残しも、結構あげてたし…。この、消毒ってのも本当に子供が無菌状態の間、5ヶ月ぐらいまででいいんですけどね。むしろさっさとこの世の汚れに染まって強くなれ!って思いましたわ…(←インド式?)。
 同様に、ヨーロッパ北部では「物が腐る」という考えが余りないらしく、パンはまとめて焼いて保存、余ればおかゆに。ハエも、そもそもたかる場所が寒く細菌がいないため、日本のような「ハエ=ばっちい」という概念がないそうです。
 ・「脂汚れ」と「油汚れ」
 コレはホントに目からウロコもウロコでした。「あぶら」って言いますけど、ヨーロッパでは食器を洗うのに「洗剤」は必要としなかった。昔の、単純な調理法の肉の頃や、コールドミートの場合。何故なら、肉料理のあぶら=動物性のあぶらは「脂」であって、体温以上のお湯で溶けるので流せるから。(食器を拭いて脂汚れがついた布巾も、煮れば同様に脂が落ちる)
 ちょっと前に「脂」と「油」の違いは、「常温で固体なのが脂」「常温で液体なのが油」と知りました。で、後者の「油」ってのは、所謂油であって(ややこしいな)お湯(熱湯でも)完全には落ちないんですね。
 「油汚れに〜♪」と歌っているCFも、サラダ油とかの汚れを落としますよーなわけです。
 で、日本の「あぶら汚れ」は主に植物性の油、例えば「サラダ油」=「油」なわけです。西洋料理(近代の)が入ってきて日本の食器が汚れた!わけではなく、元々日本料理のあぶら汚れは植物性。
 日本でも、江戸時代ぐらいまでは、そもそも油の料理が少ないので食器は水で洗ったりしないで、お茶で漱いだりお漬物で拭いたりして終わりだったそうです(これは確か『鬼平料理帳』で読んだ)。そういえば、日本料理でも珍しくあぶらを使うといえば油揚げとか厚揚げ、とか、確かに植物性の油だからお湯でも落ちないし、いかにも脂!な背脂を使う沢煮椀などだとこれは動物性。あと伝統的に日本料理で油炒めをするのは胡麻油とか、やっぱり植物性ですね。何かヨーロッパの方がアブラギッシュなイメージがあったんですが、意外にも、扱いにくいのは日本料理の方だったんですね…
 ちなみに、「サラダ油」とは、「サラダに使えるほど精製された油」のことで、本来は野菜にスプレーするかまぶしてコーティングして水分を閉じ込め、そこにドレッシングをかけるのが正しい使い方なんだそうです(だからその「ドレッシング」には油は混ぜていない)。炒め物に使うものではないんですね。確かに、油分としてのコクは出るけど、やっぱり風味という点ではバターやオリーブ油や胡麻油にははるかに及ばない。
 ・日本の流しはシンクがでかすぎる
 日本では伝統的に、「流しの底は汚い」という観念があるために、「洗い桶」というものを置く。だからシンクが大きくなる。
 これは本当に心底困ってます。うちの台所もシンクがでかすぎて調理台が余りにも狭い。だからいつも俎板はシンクに半分はみだしてます。野菜を切る時はシンクに吊るした生ゴミ入れにゴミが直行するのでその方が便利だし。でもシンクなんか今の半分でもいい。大体。シンクに洗い桶を置いて洗い物を溜める方がまずいんだから。シンクなんてヨーロッパみたいに、本当に、「水を捨てる場所」でいいのに…
 もしいつかリフォームできる時かきたら、シンクは今の半分の大きさにして、洗面台みたいに、調理台との間に段差のないやつに変えよう(実際こういうものが既に売っている)。
 ・「DK(ダイニングキッチン)」は和製英語
 この言葉は「外国で使うのはやめましょう」。はあそうですかそこまで厳しいですか(^^;)
 戦後の住宅難の時代に、何故か個人のプライバシーを優先した結果、共用部分が少なくなり、共用部分は即ちキッチン兼食堂兼通路(この通路ってのは確かにそうですな!)のひと間になってしまった。うーん何で日本はこんな所で思いっきり間違ってんだか…。
 となると、カウンター式にしてキッチンを独立(またも、「独立」です)させることによってやっとキッチンという私的な部分だけは別になったわけですね。
 ヨーロッパではキッチンに置いた食卓とダイニングテーブルは厳然と分かれてますからね。日本の単なる「共用部分」、飯を食いTVを見る部屋を見たら驚くでしょうなあ。でも、日本で「キッチン」と「キッチンの食卓」と「ダイニング」が全部ある家も今やよほどのお金持ちでないとないよなあ。
 うちなんか、台所はカウンターで仕切られて独立してるけど、ダイニングと食卓は兼用で、同じ部屋のもう半分、「リビング」に当たるところは丸ごと子供スペース。まあ、家全体がこれ以上どうしようもないんだけど。
 思うに、このさ、付け焼刃な「個人のプライヴァシー」なんて考えがいけないんだよね。個室なんてものは、ヨーロッパの伝統的住居でもそうなんだけど(この本で知ったけど(笑))、個室は主人の部屋とか子供部屋ぐらい。日本でも家長の部屋ってのはありましたね。奥の座敷というか。客用のお座敷もあったし。むしろ、本当に個室が与えられるべき人間を中心に考えていくことで、家ってのはその他の部分も自然とうまくはまっていくんじゃないだろうか。日本で今、子供が2人いたとしてそれぞれが個室を持ってて、父親がリビングのソファでごろごろするしかないってのがおかしいよね。まず父親に書斎を与え、両親に広い寝室を作るようにして設計していったら…
 ま、それも一軒家なら日本でもやってるか(笑)
 日本のマンションは狭いんだな。
 ・ペリメーニ
 私の大好きなロシア風水餃子。ってかこれ、むしろ餃子ってロシアから中国に伝わったものなんだそうです。だって中身一緒だもんな(笑)。ペリメーニはレモンとパターとパセリ。でも中身も皮の組成も一緒。で、日本の餃子は、この本によると兵士が中国北部で憶えてきたものだそう。確かに宇都宮は満州からの引き揚げの人が多く、餃子の街になったそうですから。(ちなみにラーメンの町喜多方で最初のラーメン屋さんは中国の方が始めたお店です。美味しかったです)