井上祐美子『臨安水滸伝』(講談社文庫)
臨安水滸伝 (講談社文庫) | |
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でも、魅力的な主人公2人と、実はこれまた面白い敵と、虚虚実実の駆け引きあり、アクションありの、面白い物語だった。
南宋の時代。臨安で漕運業を営む家の若き貴公子2人。1人は落ち着いた知性派、1人は真っ直ぐな武闘派、なのだが、こよなく仲のよい従兄弟同士。この2人が、抗金の英雄・岳飛を陥れた悪の巨魁とされる秦檜の陰謀に巻き込まれ、事態はめまぐるしく動き始める…
この話も、『海東青 摂政王ドルゴン』同様、実は大人向け。さわやかな登場人物たちとエンタテインメント感十分の展開で読み出したら止まらないのだが、非常に深い事実が後半どんどん明らかになっていく。
個人の義と大義の矛盾。忠誠と一口で言っても決して絶対的ではないこと。英雄岳飛が必ずしも完璧なのか?秦檜は単なる売国奴なのか?裏の裏の裏、結局一番正しい、というより、妥当な道はどれか。
かといって、主人公が流されてしまうとかそういうことではなく、二十歳そこそこの若さで老獪な秦檜ら政治家と渡り合う中で、清真さは失わずに、自分たちだけの道を見つけていく。
大勢力、国家権力に対する小勢力、勝負が曖昧で、主人公たちは去っていく、という点では、五木寛之『風の王国』にもちょっと似ているかな。
一応話としてはバッドエンドではないけれど、必ずしも明るいばかりではないラスト一文。この先もっと彼らが活躍する時、本当の決着がつく時は、もっともっと非情な時代になっている…
この、痛快さ、深さ、切なさを全て併せ持っている所がいい。
主人公や周囲の人物は勿論、敵の秦檜の人物像もいい。(そういえば、昔学校で使っていた歴史の資料集に、「晒し者になっている秦檜夫妻の像」ってのが載っていたような気が。検索してみたらこれとこれだった)
物事は一方から見ているだけでは駄目だ、ということがよくわかっている大人向けですね、やっぱり。
ただ、主人公にホの字の、臨安一の妓女っていうのが、あんまり魅力的じゃないっていうか…才色兼備といくら言われても実際やってることがバカ…。烏娘こと四娘の方がまだいいなあ。
それにしても、今Wikiのリンクを辿って金とか宋とか南宋とか色々どんどこ見てったら、ワンヤンアグダとかヤリツソザイとか文天祥とか、昔色々憶えたなーと懐かしく思い出した。このへんの歴史は大学の東洋史学科では「中国中世史」で習って、まあとにかく異民族がばんばか入ってくるから憶えるの大変だったのよ(笑)。でも、ワンヤンだの何だの、エキゾチックな名前はやっぱり好きだったなぁ。