張仲* 岩井茂樹訳・注『最後の宦官 小徳張(朝日選書434)』(朝日新聞社)

 

最後の宦官 小徳張 (朝日選書)
最後の宦官 小徳張 (朝日選書)張 仲忱

朝日新聞社 1991-09
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 (*は、りっしんべんに沈むの旁)
 …相変わらず、飽きつつこれでやっと最後かな。
 で、今回の「最後の宦官」は、「まともに引退した最後の宦官」、言い換えれば、これは関連書籍でよく言われていることですが、「最後の大物宦官」ってことですね。
 西太后の腹心として有名な李蓮英の一世代下で、22年の奉仕の後、最後は皇室の世代交代に従って宮中を去り、天津で大金持ちとして優雅な余生を送った。著者は主人公の養子(兄の子)の子、だから「宦官なのに孫がいる」のパターン。まあ、史上最も有名な「宦官の孫」は曹操だけどね(笑)(父曹嵩は元は夏侯氏の出で、大物宦官曹騰の養子となった。ただ、曹騰は前漢の功臣曹参の子孫を自称しているが、そんな血筋なら何故宦官なんぞになってるのかという…。陳群は曹操が宦官の孫であることから、敵だった頃に曹操の弾劾文に物凄い悪口を書いている。この陳群こそ、後に曹操に重用され九品官人法を作った男である)。
 で、この小徳張の生涯二度の里帰りの二度目、墓参りのために大金、多くの従者に料理人まで引き連れてやってきた大イベントを見て、宦官になろうと決意したのが、文字通りの”最後の宦官”孫耀庭だった。とこのような「伝統」が清末…というよりもう清朝が公式には終わった頃にあったわけですね。
 で、内容はというと、読み物としては面白い、かな(笑)。岩井氏が注やあとがきで指摘している通りの、小徳張の記憶違い(彼は公式の取材には応じたことがなく、辛うじて残った記録がこの、孫への昔語りなのである)、脚色、自身の美化などがあり差し引かねばならない部分が結構ある。しかし、つい読んでしまう覗き見的な部分もある。まあそういうわけで、学術書ではなくあくまでこういう昔話もあった、ということで。
 ちなみに、岩崎氏がこの本を訳出したのは、今の私と同い年の頃である。もし私もあのまま学問の道に残っていたら、と、ふと無駄なことを考えた(笑)。留学もしたかったし。岩崎氏は年齢から考えても今は、というか私が大学院の頃で既にベテランの学者さんだろう。同じ時代を研究していたが、テーマが全く違ったせいかこの方のお名前を当時拝見したことはなかった。縁は異なもの。