倉橋由美子『よもつひらさか往還』(講談社)、『酔郷譚』(河出書房新社)

 

よもつひらさか往還 (講談社文庫)
よもつひらさか往還 (講談社文庫)倉橋 由美子

講談社 2005-03
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おすすめ平均 star
star02年刊行の連作短編集(文庫版は05年)
star九鬼さんのカクテルで独自の世界を紡ぎ出す幻想的な傑作短編集
starあいかわらずの不思議な世界

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酔郷譚
酔郷譚倉橋 由美子

河出書房新社 2008-07-16
売り上げランキング : 59400

おすすめ平均 star
star淫にして、妖なれども、卑ならず
starよもつひらさか往還拾遺
star素晴らしくかつ残念

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 「サントリークオータリー」という、お酒を出す店に置いてある(らしい)サントリーの広報誌に連載されたもの。
 連載することになった経緯は先日採り上げた『倉橋由美子 夢幻の毒想』(KAWADE夢の手帖)に書かれている。北杜夫さんの長女・斎藤由香さんがサントリーの新入社員の頃、「好きな作家に書いてもらっていいよ」と言われ、真っ先に、父の北さんが大ファンである倉橋さんに依頼した。体調が悪いしと断る倉橋さんに、「体調の悪い時は何ヶ月休載してもいい」と食い下がっての連載。(「クオータリー」ってことは季刊誌?で休載と言ったら凄いことになるけど(笑))
 『よもつひらさか』は存命中に、『酔郷譚』は亡くなられた後に刊行。
 倉橋作品をずっと読んでいる人になら、あ、これは桂子さんシリーズの番外編として考えればいいのだな、とわかるのだが、知らずに連載誌を手に取った人はいきなり「慧君」とか「桂子さん」とか言われても困ると思う(笑)。でも、シリーズを知らないと人物の関係(シリーズ内ではどんどん増えるし複雑)が全くわからないにしても、ストーリーを知っていなければ理解できない話ではなくあくまで独立した短編の連作だし、こういうキャラクターがとにかくいて、書かれている通りなんだと思えばいいのか。そもそも、ほろ酔いで手に取る読み物なのかもしれないし。
 九鬼さんというバーテン(兼、入江家=主人公の少年・慧君の祖父で元総理大臣の「入江さん」を長とする=の家宰のようなもの)が作り出す不思議なカクテルに誘われて、妖しく、少し怖くて、よくわからない物語が始まって、元のバーに戻ってくる。(注:慧君は、初登場時14歳、超人的大脳皮質を持っているという設定で、酒は飲むわナニはするわのスーパーお子様である。)
 元々が倉橋作品は一言で言えば「浮世離れしている」であって、その中でも意識して完全に「浮世離れした物語」であることが目的のような作品群。
 古典の素養がないと元ネタがわからない辛さは存分に味わえるが(笑)、それは仕方ないとして、古典のことは全く知らない私は元ネタはスルーして、ひたすら奇妙な物語を楽しんだ。