島田荘司『溺れる人魚』『最後の一球』『光る鶴』
溺れる人魚 | |
島田 荘司 原書房 2006-06 売り上げランキング : 97663 おすすめ平均 BLではないです。 御手洗短編集 トータルとして深みのある作品♪ Amazonで詳しく見る by G-Tools |
表題作他4作品の短篇集。直接御手洗潔が登場するのは2作のみ。
本格推理というより医学推理と歴史上の謎のクロスオーバーという最近の傾向通りのラインナップですね。
えー、えー、簡単にぶっちゃけると、グロいネタが結構ある(笑)。
表題作「溺れる人魚」は、『ロシア幽霊軍艦事件』と同種の、脳障害に関する無知によって引き起こされた悲劇の物語。これは切ないですがグロくはないです。
「人魚兵器」。デンマークにある人魚姫の像があの人魚姫ではなく単にバレリーナの像だったのがわかったのは収穫だけど…グロい。普通の時に読んでもグロいし、今読むと余計グロさが身にしみる。しかしそればかりは言っていられない。ナ○スの秘密実験の話なのだが、軍事研究としておぞましい人体実験が行なわれていたこと自体もさることながら、実際には軍事研究を隠れ蓑に、単に自分の好奇心というか狂気を満たすためだけに本当におぞましすぎる実験をしていた科学者がいたということがもっと怖い。言い換えると、知識と技術を持つ人間は、環境さえ与えられればいかに容易に人を人と思わずつまりは自分も人間とは呼べないようなことをしてしまうかということだ。実際、前の記事で述べたあの部隊やナ○の人体実験が、戦後医学の基礎の大きな部分を占めているのも、この小説でも言及されているが、事実なのだ。ほんの一例だが、戦後日本の医学の教科書の、人間の体温の変化に関する記述は、そのほとんどがあの部隊での人体実験の成果だという(『大阪保険医雑誌』2006年8・9月合併号より)。人は何でこんなことをするのだろう。しかし、人魚姫の像が何度も壊される理由が本当にこの真相通りなのかというとやっぱりフィクションだと思う。
「耳の光る児」。これは短編ながらかなり壮大な歴史推理の面白さが味わえる。
「海と毒薬」。これは『「異邦」の扉に還る時』からの再録。個人的にはちょっとセンチメンタルすぎる話に思える。
最後の一球 | |
島田 荘司 原書房 2006-11 売り上げランキング : 119701 おすすめ平均 御手洗シリーズですが 後味爽快 島田荘司の本領発揮作 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
というのが最大の感想。…済みません。(いや、ドロドロ話もイヤじゃないけどね。)
推理、青春、人生のほろ苦さ、全てがいいバランスで入っている、これは傑作と言っていいでしょう。
出てくるプロ野球チームのモデルが―御手洗氏の地元ということもありますが―横浜ベイスターズであろうことも、ベイファンの私としては嬉しいし(笑)
島荘の社会派な点が嫌味なく上手く生かされているのも特徴。ホントに、今の、金融業者の被害者に対する司法の対応ってこんなにヒドイんか!!!!と憤りましたです。
光る鶴 吉敷竹史シリーズ16 | |
島田 荘司 光文社 2006-09-07 売り上げランキング : 193559 おすすめ平均 普通、かな 「涙流れるままに」と似てる Amazonで詳しく見る by G-Tools |