ブーリン家の姉妹 

 ねたばれあるので注意。
 

ブーリン家の姉妹 コレクターズ・エディション [DVD]
ブーリン家の姉妹 コレクターズ・エディション [DVD]ナタリー・ポートマン, スカーレット・ヨハンソン, エリック・バナ, ジム・スタージェス, ジャスティン・チャドウィック

ポニーキャニオン 2009-04-01
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おすすめ平均 star
star史実を知りたくなりました
star面白かったです
starとにかく衣装が美しい・・!

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 映画館に行くのは無理なので、はなからDVDのつもりでいて、やっと観ました〜。
 「エリザベス・ザ・ゴールデン・エイジ」とかは、スケール性も売りなので、映画館で観てれば面白いと思える映画だったのかとも思いますが、この「ぶーりんさんち」はDVDでも十分楽しめました。この時代を扱った映画ってとにかく画面が暗いんですが(「エリザベス」第1作もな〜)、むかーしのエリザベス女王映画(エロール・フリンとかが出てる…)に比べれば屋内シーンでの照明技術も勿論進歩しているし、敢えて明るく撮っているのもあるでしょうしで、「暗い」ってことはなく、目が疲れませんでした。話は暗いけど。
 だって明るくしようがないし〜。
 明るくするなら嘘の話にしなきゃいけないし〜。
 結末はわかってるんで、借りてはみたものの、結構観るまでは逡巡しましたね(笑)
 で、観てみると結構、まあ1回は観てもいいかなという感じでした。
 アン・ブーリンと一緒に妹も宮廷に入っていた、という話は聴いたことがありました。だから映画の原題も「もう1人のブーリン家の娘」。妹もいたぜよ、というのが主眼のお話。
 実際にはメアリーの方が姉だったらしいとか、史実とは色々違うところもあるにせよ、ストーリーは史実を利用してよくできていたと思う。
 しかも実際に、妹(一応)の方が先に王の息子産んでるんですもんねー。これは映画のあらすじを読むまで知らなかった。
 で。
 「やっぱり、人を陥れたり、やたらと恨みを買うようなことはしちゃいけないんだな〜」
という、ごくごく真面目な感想を抱きました(笑)。いや、抱くだけは抱いたと。
 ただ、妹のような生き方が幸せへの近道なのだ、と普通に考えるのも、娘を出世の手段とすることや、王と寝るのは人妻であれ仕事、という、建前社会、当時の上流階級の「常識」を余りにも無視していることになる(フランスにも、「公式寵姫」という制度?があり、この国はカトリックなので離婚禁止ですが寵姫の産んだ子にも王位継承権があった)。だから対照的な姉妹の幸不幸は、あくまでも結果論。現代の我々だって、どっちになりたいと望んで本当にそうなれるわけじゃあない。ただ、歴史というのはやはり面白いというか、肝心な所は正しく神の計らいか天意か、妹が王の子を産んだ正にその時、姉は王の寵愛を奪い、王妃になり、いざ子を産んでみたら女の子。
 これも現代にも通じますが、地位は奪い取れても、産む子供の性別までは自分では決められない。アンが、自分が男の子を産めると思い込んでるあたり、甘いです(笑)。永井路子さんもずばり書いてますが、女っていうのは結局、「子供が男か女か」という、「自分では決められないこと」で人生が決まることも多々あるので、どっかでそれを心し戒めつつ、諦めるべき所は諦めて、まあ昔の時代なら、自分の命だけは守れ、ってことでしょうか(^^;)。
 アンは史実でもこの映画でも、王を操ったというより、やっぱり最後殺されちゃあ、男に翻弄されたと言った方が正しい。妹だって、王に一度は愛され愛したが故に危険と隣り合わせになり、最後だって辛うじて生き延びただけだということだけが示されている。(それ故に、新しい夫や子供たちと歩む姿には、もう二度と幸福を手放さないという決意が見える。)
 ただ、アンは若いし王様だって熱烈に求愛して(宗教を変えてまで!)王妃にしたほどの相手なんだから、まだまだ他に子供を産めそうなのに、何で女の子1人だったぐらいで処刑しちゃったんだろう、とは前々から疑問に思ってました。この映画では、周囲の人間(父、叔父)の思惑や、アンが過去に無用に買っちゃった怨みもしっかり交えて、姉妹の愛憎劇であると同時にやっぱりヘンリー8世とアンの腐れ縁夫婦の悲劇=愛情がいかに簡単に憎悪に変わってしまうのか、を描いて説得力を持たせていたと思います。
 また、最初の王妃と同じく、アンを何とかして離婚しようとした王様が持ち出した口実の1つに、「兄との近親相姦」がありましたが(通説では兄。映画では弟になってましたが…)、それも上手いこと盛り込んでいます。このへんはうまい話作りだと思いました。
 結局は、あれほど男の子=「強い後継者」を欲しがっていた王様が、何でメアリーが折角男の子を産んだのにその子を王太子にしなかったのよ、っていうのが一番の問題で。
 細かい解説は省いて、要は、王様が「正式に結婚した王妃の子以外は継承権を認めない」なんて言ってないで、さっさとメアリー(妹ですね)の産んだ子を認知してりゃあ済むことなんですわ。
 でもこのヘンリー8世、妙に真面目というか、結婚→男の子作りというルートにやたら拘るんですわ。いちいちちゃんと結婚するあたり、エリザベス・テーラーみたいです(しかも彼女の場合、リチャード・バートンと2回結婚してなかった?)。結婚するためには今の奥さんと離婚しなくちゃいけない。だから、真面目に「結婚」=「神が認めた聖なる結びつき」に拘る余り、本家本元のローマ・カトリック教会と決別して、そっちの側からは「破門」されちゃって、というわけのわかんない状態になってしまった。…という、この時代独特のロジックと矛盾があるわけです。(元々この宗教問題というのはつきまとってまして、最初の王妃カザリン・オブ・アラゴンはスペイン出身で当然カトリックで、その娘”ブラディ”メアリも非常に熱心なカトリックでついでに旦那はスペイン王。但しアンの娘エリザベス(後の1世)はプロテスタントというか国教会というかで、即位してから確か統一法というのを作って新教と旧教の争いに一応ケリをつけている。)
 で、王様が「嫡出」「非嫡出」に異常に拘った(まあ宗教と政治が不可分であった以上しょうがないのかもしれませんが)結果、カザリン・オブ・アラゴンの子”ブラディ”メアリー1世も、アンの子エリザベス1世も、母親が離婚されたり処刑されたりで嫡出から非嫡出になって継承権もなくなって非常に苦労したんですが、結局継承権は復活してそれぞれ女王になっている。
 アンの後の王妃、ジェーン・シーモアが王の念願の男子を産みますが産褥で死亡。その次の王妃クレーヴスのアンは離婚。キャサリン・ハワードは処刑。最後の王妃キャサリン・パーはほぼ王の看護婦状態。
 ロンドンで、「ヘンリー8世と6人の王妃」という、7枚のチョコレートにそれぞれ肖像画が印刷されてるお土産を見かけました。ヘンリー8世ってのは忙しい王様だと思いました(笑)。いちいち結婚しなくたっていいのに…(笑)。でもそれこそ愛人は何十人といた彼ですから、「後継者問題」を彼なりに真面目に考えていたからこそですね。ああ疲れる男だ。
 シーモアの子エドワードが次の王になるものの夭折。そしてメアリーときて、彼女にも処刑されかけたエリザベスが即位するわけですが、そこまでの経過を最後でもっと説明してくれていたら、エリザベス1世は正に親の因果がナントカ、事実は小説より奇なりっていうことがよりはっきりわかったと思うんですけどね。本当に、母親が生きて手に入れられなかったイングランド一国を、娘が45年間も握ったわけですから。この親にしてこの子ありです。それに、この映画では彼女を引き取るのはメアリーなので、色々とお母さんであるアンのことも語って聴かせたんじゃないかとか、幸せな想像をしてしまいますね。トラウマにもなるだろうけど(^^;)。もしかしたら本当に、生き延びたこと、女王として立派な政治をしたことには、ああいう母を持ったという意地もあったのかもしれません。
 ただ、エリザベス1世にも自分の子がなく、やっぱり因果はめぐるというか、幸せって巡って来ないですねえ〜。確執の果てに処刑したスコットランド女王メアリー・スチュアートの子、スコットランド王ジェームズ6世をイングランドの後継者=ジェームズ1世にしたことで皮肉にもイングランドスコットランドは統一される。どこまで因果か罪の報いか、きりがないのでこのへんで。
 卑近な興味でいえば、やっぱり女2人のバトルだし、女同士ってかなりナマナマシイ会話をしてるので、男子にはちょっと「いや〜ん」だったかも(笑)。それに権力に直結する「大作戦」だから仕方ないんですが、閨房にまつわる赤裸々な親戚同士の会話のシーンで、叔父さんがメアリに言う「こういう会話に慣れろ」には大爆笑しました(笑)。
 あと、大きくなっても姉妹2人で出てくるシーンではちょくちょく色違いのお揃いの衣装だったりするのは、女子としては楽しかったですね。姉妹って、それぞれ結婚しても本当にいつまでもつるみますからね〜。男きょうだいだと何故かそうはいかないのが不思議です。
 結局、アンの妹に対する誤解は解けてないんでしょうけどね…。あれは妹の方が、悪くないのに姉を庇ってあげたわけだから。
 あと、自分にちっちゃい娘がいるせいか、妹に娘エリザベスを託したアンの気持ちはよくわかったし、ラストシーン、そのエリザベスを抱いて堂々と顔を上げて去っていくメアリの姿だけが、この映画で唯一溜飲の下がる所でしたね。あの時代の常識とはいえ、やっぱり、家に利用されて人生が滅茶苦茶になったり命を落としまでしたわけだし。そういう意味では、徹頭徹尾「愛」を基本にして夫や弟を詰る姉妹のお母さん(名門ハワード家を捨てて新興のブーリン家に嫁いだという設定)や、最後まで誇り高いカザリン・オブ・アラゴンも素晴らしかった。女優さんがみんな素晴らしい映画でしたね。男共が、王をはじめみんな影が薄い〜(笑)